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研究助成

成果報告

2011年度

現代中国における対日政策の策定・執行と「廖承志集団」
― 対日工作者の人的資源ネットワークに関する実証研究(1949-1972)

東京大学教養学部講師
王 雪萍

研究の進捗状況

档案史料調査
 2011年8月〜2012年3月まで4回に分けて外交部档案館、上海市档案館への調査を実施、外交部档案(396巻)、上海市档案(102巻)を入手し、分析中である。

インタビュー調査
 2011年度の申請書に書いた70名のインタビュー調査は、資金面などの影響もあり、2012年3月まで北京、天津、上海、広州の29名(内2名に対する重点調査6回を含む)の調査完了。

研究会・国際シンポジウム開催
 現代中国学会全国大会の分科会(2011年10月)、中国杭州市で開催した国際シンポジウム「廖承志と戦後日中関係」(2012年3月)を含めて研究会を8回開催し、研究成果を公表してきた。特に、中国で開催した国際シンポジウムでは、日中両国の研究者による学術報告会を実施すると共に、現地の大学生向けの講演会も開催し、本研究の成果を広く公開した。

研究で得られた知見
 中国の対日政策をして他の対外政策から一線を画させた要因として、廖承志の下に多数の日本専門家が組織横断的に集まり、対日「工作」に従事していたことが挙げられる。これらの日本専門家は、(1)戦前日本に留学し、建国以前から中国共産党の対日「工作」に従事していたもの、(2)建国以後日本から帰国し、対日「工作」に従事したもの、(3)建国以後国内の教育機関で日本語教育を受け、卒業後対日「工作」に従事したものに大別され、その背景は必ずしも同じではない。しかし、彼らの活動は廖承志という個人を通じて、何らかの形で中国の対日政策に還元されていたのである。当時、このような専門家集団が他に形成されていたような事例は、管見し得る限り今日まで確認されていない。
 こうした背景に鑑みれば、対日政策決定過程の解明をもって中国の対外政策決定過程そのものを解明するのは些か冒険的な試みであろう。そのため、あくまでも本研究は対日政策を事例として、廖承志と彼の下で活躍した対日「工作」専門家集団の役割に焦点を当て、その構造的特徴を解明し、それを「廖承志システム」として定義付けることとする。

今後の課題
 第一に、本研究ではかかる「廖承志システム」がその主たる「工作」対象であった日本政府と中華民国政府からどのように認識され、両者がどのような対応を取っていたかを解明する必要がある。それは、「廖承志システム」が日本及び中華民国にとってどのような意義を有していたのか、双方にとって廖承志という人物はどのような意味も有していたのかを明らかにすることに繋がるものである。 第二に、本研究では通常の外交ルートのみならず、様々な民間アクターを活用した「廖承志システム」がその後の日中関係に残した「遺産」をさらに解明する必要があると考えている。「廖承志システム」の下で構築された日中関係は、その後どのような推移を辿ったのであろうか。そして、かかる日中関係は他の二国間関係と比較して如何なる特徴を有していたのであろうか。日中関係が大きな変容を迎えている現在、「廖承志システム」が残した「遺産」の意味を再検討することは戦後日中関係における構造的問題の解明にも繋がる。

 

2012年9月

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