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研究助成

成果報告

2010年度

ヨーロッパにおける日韓ポピュラーカルチャーの受容

ヴィータウタス・マグヌス大学アジア研究センター研究員
高馬 京子

 本研究では、近年、欧州における日韓それぞれの他者イメージを形成する要因として重要な位置を占める日本と韓国の現代ポピュラーカルチャーの欧州での異文化受容に焦点をあて、学際的かつ国際的視点から横断的考察した。現在、全世界で注目を集める日韓のこれらのポピュラーカルチャーが、フランス、ドイツといった西欧のみならず、今まであまり研究されてこなかったリトアニア、ポーランドといった東欧においてもいかに異文化受容されているのかその実態を研究するとともに、自国のポピュラー普及に対する日韓の政策についても調査することを目的とした。また、特に欧州におけるアジア研究において、なかなか正式な研究対象として認識されにくい現代サブカルチャー、ポピュラーカルチャーを、体系的な研究領域として提示する手掛かりを示すことも本研究の主眼の一つであった。
 本研究を通し明らかになった点として、本研究時点(2010年―2011年)では、アジアでは日韓ポピュラーカルチャー人気が競合しているのに対し、欧州では日本のポピュラーカルチャーがより受容されている点、また消費者主導とみられる傾向があるポピュラーカルチャーではあるが政府の外交戦略装置の一環として現在推進されている点が挙げられよう。本年度の研究成果として、論文集Acceptation of Japanese and Korean Popular Culture in Europe(『ヨーロッパにおける日韓ポピュラーカルチャーの受容』)を、ヴィータウタス・マグヌス大学出版会から2011年8月に出版した。掲載論文、各研究成果は以下の通りである。
 チョイ・サン・ユンは、「ポーランドにおける韓国ポピュラーカルチャーの受容」において、ポーランドでは韓国文化の受容はそれほどなされていないと述べつつも、韓国外務省が2009年に行ったポーランドで関心の高い韓国文化リストに基づき、その上位に位置づけられる韓国映画、TV、ポピュラー音楽、コンピューター、料理などがどのように同国で受容されているのか、また今後の方向性について考察した。
 北村卓は「ヨーロッパとアジアにおける宝塚歌劇の海外公演」において、1938年から翌年にかけて、ドイツ、イタリア、ポーランドの25都市を巡回して以来、日本政府の支援を受け、数多くの国々を訪問してきた宝塚歌劇の海外公演に焦点を絞り、その社会的、政治的背景について明らかにするとともに、ヨーロッパとアジアにおいて、各政治状況と公演プログラムの相関がどのように異なるのかを考察した。
 高馬京子は、「フランスとリトアニアのアンケート調査を通してみるカワイイ」において、欧州で人気の日本ポピュラーカルチャーのキーワードの一つであるカワイイが欧州でいかに受容されているのか、西欧(フランス)と東欧(リトアニア)におけるその受容特徴を比較するべく、現地で行ったフィールドワーク、インタビュー結果を考察、分析した。
 リー・サングムは、「ドイツにおける韓国ポピュラーカルチャーの受容」の中で、ドイツでは中国やアジア諸国のような韓流ブームは特に見受けられないと指摘した上で、それでも同国が韓国に興味を持ち始めた2002年の韓国―日本ワールドカップの時以来、ドイツで関心がもたれ始めている韓国映画の受容状況を中心に、いかなる韓国のポピュラーカルチャーが受容されているかの現状と今後の課題について論じた。
 シャルチーナス・マルティナスは、「欧州における日韓映画の流行」において、主にヨーロッパの映画祭における日韓映画について考察を通し、韓国映画と日本映画のそれぞれの受容の相違点について検討した。
 ソ・ジンソクは、「リトアニアにおける現代韓国文化の受容」の中で、リトアニアにおける韓国の現代文化の位置づけを分析するべく、リトアニアにおける韓国の紹介を通史的に考察しながら、文学、音楽、映画、TV、舞踊など韓国現代文化がどのようにリトアニアで紹介されているかを考察した。
 ジカス・オウレリユスは、『21世紀日本の広報文化外交におけるポピュラーカルチャー言説』において、日本の21世紀の文化外交政策におけるポピュラーカルチャーの役割について、自身の日本でのインタビュー調査に立脚し同カルチャーに対する政府の態度(文化外交を担当する責任者、機関)を、韓国との関係にも触れながら考察した。
 実施した個々の事例調査に基づき、今後、2011年貴財団助成プログラムでは、具体的に比較研究という形で発展させることで、韓国の事例を鑑みつつ、日本のポピュラーカルチャーがいかに欧州において異文化受容され、その文化政治戦略がどのようになされているか学術的かつ社会的に、この社会現象を明らかにすること、また、アジア研究におけるポピュラーカルチャーの研究分野として確立への一助を課題とする。

(2011年9月)

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