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研究助成

成果報告

2010年度

地方行政の公共性と多様性の価値

学習院大学教授
桂木 隆夫

 本研究プロジェクトの研究成果及び研究で得られた知見について、本研究プロジェクト最終報告書の概要を示すことによって、その報告に代えることとしたい。
 最終報告書「地方行政の公共性と多様性」の構成は次のとおりである。
 はじめに
第一章 地方行政の公共性と多様性‐富国強兵と枢密賞
第二章 多様性と格差を区別するもの‐政治・行政・経済
第三章 買物難民
第四章 散骨にみる海士町の取り組み
第五章 限界集落問題にみる公共性の変容

 第一章「地方行政の公共性と多様性‐富国強兵と枢密賞」では、地方行政の公共性と多様性が、地方の多様な文脈のもとで経済・社会・文化の下からの活性化を図ることによる国富(公共性)の達成にあるという視点から、そうした視点が既に徳川中期以降、太宰春台から特に海保青陵の思想に認められ、さらには横井小楠や福澤諭吉に受け継がれたことを論じる。
 第二章「多様性と格差を区別するもの‐政治・行政・経済」では、地方の政治・行政・経済の多様性は各地方間の格差を生み出すことに他ならないのではないかという批判に対する回答として、地方財源の偏在状況や地方公務員数の国際比較などに言及しつつ、地域経済循環論を再検討し、特に地方の特性に応じた地域内再投資力の強化とそのための地方行政の役割を論じる。
 第三章「買物難民」では、地方の過疎化・高齢化から生じている「買物難民」の問題を、地方の多様な文脈と行政の公共的役割という視点から論じる。買物難民(食料品や生活必需品の買物に困る人びと)についての意識調査やアンケート調査、また浜松市における「便利屋猿ちゃん」の存在や市の「買物」支援事業に言及しつつ、「買物難民」に対する行政、コミュニティ、NPO・生協などの役割を論じる。
 第四章「散骨にみる海士町の取り組み」では、地方行政の公共性と多様性の基礎にあるコミュニティとその源泉としてのそれぞれの地方における祭祀の継承という視点から、墓をめぐる問題、特に無縁墓の増加の問題を捉え、日本人の宗教心と墓の関係、その新たな形としての散骨とそれを支援する海士町の取り組みを論じる。
 第五章「限界集落問題にみる公共性の変容」では、限界集落のかなりの部分が中長期的には消滅していくであろうことを遺憾ながら止むを得ない趨勢であるという認識に立ちつつも、地域の多様性(文化風土、年齢や性別等の人口構成、地域マインド)を踏まえた「住民自治」の可能性について深く掘り下げる必要があると論じる。

(2011年9月)

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