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研究助成

成果報告

2010年度

冷戦下の同盟内力学
― アメリカ・西側諸国・第三世界による「中枢-周縁」構造の分析

愛知県立大学外国語学部准教授
小川 浩之

 近年、終結から20年を経た冷戦について、歴史学的手法を用いて解明を試みる冷戦史研究が活発化している。冷戦は、第二次世界大戦後の国際関係のみならず、多くの国々の国内政治や社会のあり方をも大きく規定した事象であり、現在の世界にもさまざまな影響を残している。冷戦終結後、西側先進国に加えて、旧東側諸国の史料公開が進んだことで、冷戦史研究は大きく進展し、近年では文化や情報(インテリジェンス)などの視点からの研究も広く行われるようになっている。イデオロギー要因を重視するのも、近年の研究の多くに見られる特徴である。
 本研究課題は、2010年度でサントリー文化財団の研究助成を受けて2年目になる。まず、2009年度まで研究助成を受けて翻訳に取り組んでいた冷戦史に関する翻訳書(O・A・ウェスタッド著、佐々木雄太監訳、小川浩之・益田実・三須拓也・三宅康之・山本健訳『グローバル冷戦史―第三世界への介入と現代世界の形成』名古屋大学出版会、2010年)の完成・出版を受けて、今年度は、研究グループのメンバーによる冷戦史の共同研究に本格的に着手した。特に、アメリカ、西側同盟国、第三世界の三者間関係を軸としつつ、グローバルな視野から冷戦構造の形成、変容、終結を捉え直す共著論文集の刊行を目標に共同研究を進めている。
 その際、上記の共訳者5名に、青野利彦(アメリカ外交史)、齋藤嘉臣(デタント研究)、妹尾哲志(西ドイツ外交史)、橋口豊(英米関係史)を加えた計9名を共同研究のメンバーとし、さらに、それぞれイギリス、東ドイツの外交史を専門とする芝崎祐典、清水聡にも研究協力者として支援を仰いだ。
 具体的な活動としては、各自がそれぞれの研究テーマについて一次史料の調査や論文執筆に向けた準備を進めるとともに、次のように研究打ち合わせを1回、研究会を2回開催した。
 まず、2010年10月に札幌コンベンションセンターで開催された日本国際政治学会2010年度研究大会の際に、研究グループのメンバーの大半が集まった機会を用いて、研究打ち合わせを行った。そこでは、共同研究が2年目に入ったことを受けて、各自の研究の進捗状況や今後の研究会の進め方について自由かつ活発に議論が交わされた。また、同研究大会の分科会B-2(欧州国際政治史・欧州研究II)で、研究代表者が司会および討論者を務めるなど、共同研究者、研究協力者を含めた各メンバーが積極的に研究上の議論や交流を行った。
 2011年1月には、学士会館で第1回研究会を開催した。この回から、研究会の名称を「冷戦史研究会」とし、研究グループのメンバーによる本格的な研究報告と相互の批評を行うこととした。第1回目の冷戦史研究会では、妹尾哲志が「「あなた方の成功は我々の成功である」―ブラント政権の東方政策と独米関係、1969-1972年」、山本健が「ヨーロッパ政治協力(EPC)の起源」と題して研究報告を行い、他のメンバーとの間で活発な質疑応答が行われた。
 2011年6月には、同志社大学新町キャンパスで第2回冷戦史研究会を開催した。そこでは、益田実が「OEECからOECDへの再編と英米関係、1959-1961」と題する報告を行い、それを受けて研究メンバー間で議論が交わされた。この研究会ではまた、2年間の共同研究の成果および今後の継続的な研究計画について、各自の簡潔な報告および質疑応答もなされた。その際、近年、さまざまな視点から冷戦史研究が行われるようになった反面、ともするとあらゆる事象が冷戦と結びつけて論じられる傾向が見られるため、あらためて「冷戦」と「非冷戦」の境界を明確にする必要があるという問題意識の下、それぞれの報告について検討が加えられた。
 今後は、研究メンバー各自がさらに一次史料の調査や引き続き開催していく予定の冷戦史研究会での報告を行うとともに、相互の批評や全体の調整などを通して、それぞれのテーマについての論文を完成させ、グローバルな冷戦構造の形成、変容、終結を視野に入れた共著論文集を刊行することが課題となる。

(2011年9月)

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