成果報告
2009年度
国際問題に対する日本的解決策の検討
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情報氾濫時代における戦略的情報発信のために
- 慶應義塾大学法学部教授
- 薬師寺 泰蔵
現在国際社会において、外交或いはビジネスに至るまで、経済的大躍進を続ける中国の動向や発言に関心が集まっている。中国自身も孔子学院の拡充など、対外発信に非常に積極的でな姿勢をみせている。その陰で沈黙を続ける日本自身の情報発信の著しい不足に加え、政治経済共に停滞が続く日本への関心を失った大手外国通信社が東京から撤退する事態におよんでいる。そのような状況下でも政府は広報予算を縮減し続けている。
「対外広報戦略研究会」(以下、研究会)は、日本が国際社会の中で「顔の見えない国」から「姿の見えない国」に陥ることへの懸念から立ち上げた。
当研究会は、日本のプレゼンスを向上させる戦略的な情報発信のあり方を議論・検討し、その活動を通してまとめた報告書や、専門家・有識者による小論文を配付・公表することで、対外情報発信の一助となることを目的とする。
世界共通の課題(気候変動、環境、資源エネルギー、食糧、人口、貧困、感染症など)に関し、問題解決に貢献する情報を効率よく発信するために、情報発信の在り方やテーマについて議論を行うため、定期的に会議を開催。各メンバーが個別分野ごとに進めていた研究を中心に発信分野とテーマの絞り込みを行なった。次に項目を大別し、科学技術で束ねる「科学技術外交」、環境・資源エネルギーや地域経済を束ねる「経済外交」、その他日本の国際交流や文化力を束ねる「文化外交」などを切り口とした議論を展開、現在も継続中である。また、その成果として有識者や情報源への聞き取りを開始しているテーマは、「温暖化問題―COP15の評価―」「ライフサイエンスを中心とするイノベーションによる国家の興亡」「科学技術外交―グローバル社会における興亡の鍵―」「未来志向の日中市民外交」「生物多様性を軸とする日本の貢献と外交」「ソフトパワーと環境技術を柱とする日本外交」「ポップとハイカルチャーによる文化外交」「低炭素社会を支えるエネルギー計画全貌」など。
併せて発信方法の検討も行い、対象を国内の対外広報関係者、海外メディアや有識者とした上で、インターネットの活用や紙媒体への論文・記事投稿は勿論、当研究会メンバーの他研究会セミナー等への参加の有効性なども検討し、試行。また、論文の多様な媒体への掲載を可能とし、対外発信関係者に広く発信するために、「読み物」としての質を考慮し、記事やインタビューまたは談話など、形式にも配慮。編集・発信が容易なものとなるよう、媒体の掲載分量に合わせた抄録による発信も検討中である。
当研究会は対中アプローチについても積極的な議論を行っている。世界共通の課題に中国が果たす役割の大きさを考えれば、日本から中国への情報発信は国際社会の諸問題解決に貢献するものとして重要である。日本国内の中国研究・交流団体など各方面との連携しながら、日本に対する前向きなインタレストを増大させ、日中関係の深化に資するテーマと発信手法を検討している。
当研究会は、現在も定例会議を開催し、議論したテーマに沿い識者や官民関係者へのヒヤリング、さらに論文執筆・口述・聞き取りなどの作業を継続している。
2010年9月
(敬称略)