成果報告
2009年度
縮小型都市計画の制度設計に関する研究
- 奈良女子大学大学院人間文化研究科准教授
- 中山 徹
研究の背景
日本の都市計画制度は人口が増えることを前提としているため、自然的な空間を人工的な空間に作り変える制度は整えられている。しかし、人口減少を前提にすると、人工的な空間を自然的な空間に戻すような制度が必要となる。このような制度は現存せず、今のままでは人口減少に伴った都市計画が困難であり、問題に対応できない。
研究概要
本研究ではこれからの人口減少社会における都市計画制度について検討を行った。日本では人口のピークを迎え、社会構造の変化に対応した都市政策が必要である。特に、郊外地のニュータウンでは今後相当数の空き家が発生することが見込まれ、治安の悪化やコミュニティへの影響も懸念される。しかし現状では戸建て住宅に対し効果的な政策も考えにくい状態にある。一方、総人口はこれからも増加していくアメリカであるが、都市によっては人口減少が顕著になり、空き家の増加などの問題に対処するため、独自の政策を行っている自治体がある。
今回の調査はミシガン州フリント市とオハイオ州ヤングスタウン市を調査対象とし、2010年1月17日〜23日に行ったものである。なお、フリント市では「ランドバンク」、ヤングスタウン市では「Youngstown 2010計画について主に調査した。
ランドバンクは2003年に主にフリント市を対象としてミシガン州ジェネシー郡がアメリカで最初に設立した行政の外郭団体である。
フリント市では産業の衰退により人口が大幅に減少し空き家が増加した。固定資産税を滞納し、家を放棄する人も多く、そのような物件を投機的目的で売買されるケースも多く見られた。投機的目的で土地や住戸を取得されてしまった場合、地域の改善や計画への参加は望めず、地域の将来に影響が出ると考えられた。
そのような固定資産税を払えない人を支援・指導し、放棄された土地や建物を管理するためにランドバンクが設立された。ランドバンクでは放棄された物件を収用し、住戸を解体するか、再利用するかなどの判断を行い、解体となった敷地は緑地やコミュニティースペースなどに転換している。また、まちというものは「美的」で「密集していない」ことが理想であり、良い土地利用を行うと共に、都市を縮小しようとしている。
アメリカの人口が減少している都市で行われている政策は、個々の問題や課題があるものの多くの示唆を得ることが出来た。日本とアメリカとでは土地の値段や法律に差があり、同じことを実行することは難しいが、今後はさらに継続的に調査を行い、実態を把握して、日本での政策について検討を深める。
※本研究の成果は日本都市計画学会都市計画報告集No.9-1 pp.27-30「アメリカにおける空き家対策事業に関する研究―ミシガン州フリント市・オハイオ州ヤングスタウン市について―」にて報告した。
2010年9月
(敬称略)