サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 地球温暖化問題に関する Public consultation の可能性

研究助成

成果報告

2009年度

地球温暖化問題に関する Public consultation の可能性

大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授
小林 傳司

 2009年12月にデンマークで開催されたCOP15(気候変動枠組条約締約国会議)に向けて、デンマーク技術委員会(Danish Board of Technology: DBT)が世界各国に呼び掛け、World Wide Viewsという市民会議が9月26日に開催された。これは、政治的な国際交渉の場であるCOP15の前に世界の市民が地球温暖化についてどのような意見を持っているかを取り出すことを目的としていた。最終的に、38カ国44会場において各国約100名の市民が集まり、世界全体では約4000人の市民が、共通の情報、共通の問い、共通の手法を用いて討議した。日本では、大阪大学コミュニケーションデザイン・センターが主催者となり、京都市のみやこメッセで実施した。
 この市民会議は、グローバルな課題に関する世界の市民の意見を政策決定者に届けるpublic consultationの試みとしては世界初のものであった。そのため、参加市民に提供する地球温暖化問題に関する情報提供資料、市民が議論する共通の問い、会議手法などが、参加国の協働によって開発されることになった。この市民会議自体は、成功裏に終わったが、市民の討議結果を政策決定者に届けるという点では、必ずしも所期の成果を挙げるまでには至らなかった。会議終了後の各国の状況等の調査を踏まえ、この世界初の市民会議の問題点と可能性、今後の課題について、以下に述べる。
 第一の問題点は、「グローバル」と言いながらも西洋中心であったという点にある。市民会議で使う情報提供資料、問い、会議手法は、2009年3月にコペンハーゲンで行われたワークショップを除くと、基本的にWEBベースで行われた。DBTがそれぞれの原案を出し、各国の参加チームがコメントを返し、改良されたものにまたコメントを返すという作業を繰り返した。問題は、このコメントを送る国々の偏りであった。参加国の地域は世界に広がっていたが、現実にこの手法開発に能動的に参加していたのは欧米各国のみであった。その中で日本は例外的に能動的に対応したというのが現実である。
 第二の問題点は、この会議自体がある意味で「社会実験」の性格を持っているといえるが、グローバルには一種の「社会的介入」の機能を持ったことである。この会議の背後にある市民参加や熟議に基づく民主主義という思想は、西洋社会の在り方と結びついたものであり、中国やインド、インドネシア、アフリカ各国においては極めて「不自然」な社会実験、つまりは社会的介入として機能していた可能性が高い。
 日本は政権交代を機に市民参加型会議への社会的期待は高まっており、今回の参加市民は事後調査においてもこの会議に大変肯定的な見解を表明している。今後、西洋を中心にこのような会議の提案が増えてくることが予想される。日本はどのようにしてこのような会議に能動的にかかわるかが重要な課題となるであろう。しかし現実には、このような会議は国内でもまだ実施例が少なく、理論的、実践的に検討するための研究蓄積、人材育成が遅れている。直ちにこの課題に取り組むことが求められている。
2010年9月
(敬称略)

サントリー文化財団