成果報告
2009年度
アジアにおける大統領制の比較研究
- 慶應義塾大学法学部准教授
- 粕谷 祐子
本研究は、アジアにおける大統領制・半大統領制諸国の政治を大統領と議会の関係を中心に据えて比較分析し、政治制度研究の理論蓄積とアジア政治の理解促進の両方への貢献をめざすものである。特に、議会に対して大統領がどの程度「強い」のか、つまり、大統領の政策課題をどの程度立法化できるのかに関して、大統領のもつ憲法上の立法権限と議会での政党を通じた影響力の2つの次元からの検討を試みる。主な分析対象国は、インドネシア、韓国、スリランカ、台湾、フィリピンであるが、理論枠組部分ではこれに加え、アフガニスタン、キルギス、東チモール、モンゴルも対象にしている。共同研究における役割分担(論文作成担当)としては、粕谷祐子が理論枠組、インドネシアを川村晃一、韓国を浅羽祐樹、スリランカを三輪博樹、台湾を松本充豊、フィリピンを川中豪がそれぞれ担当している。
以下、これまでに得られた新たな知見の主なものを述べる。第1に、アジア9カ国の大統領の「強さ」に関し、憲法上の立法権限を強い順に並べると、韓国、キルギス、アフガニスタン、フィリピン、モンゴル、台湾、スリランカ、東チモール、インドネシア、となる。また、もうひとつの分析次元である党派的権限(2008年時点)では、強い順に、キルギス、インドネシア、東チモール、フィリピン下院、台湾、モンゴル、スリランカ、韓国、フィリピン上院、アフガニスタン、であった。第2に、既存の研究では大統領の憲法上の立法権限と党派的権限の強さはトレードオフの関係にあると一般化されてきたが、アジアでは一部の国で両方とも強い場合がみられた。その例が、キルギス及びフィリピン下院である。これは、既存の見解を修正するものであり、なぜこのような状況になるのかについての研究が今後の課題となる。第3に、アジア諸国の分析(特に韓国と台湾)から、党派的権限の測定方法に対する修正が提示された。つまり、既存の枠組では、与党の議席率、政党規律、連立の有無の3点がその測定基準であったが、韓国・台湾の事例研究は、これらに加え、大統領の与党内での位置づけ(党首としてリーダーシップを取れる位置にあるかどうか)が重要な要因であること示した。
2009年度の活動目標は、日本語・英語での研究成果の出版である。日本語に関しては、2010年4月にミネルヴァ書房より『アジアにおける大統領の比較政治学-憲法構造と政党政治からのアプローチ』を上梓した。英語での出版にあたっては、現在Palgrave社と出版にむけての諸手続きを進めている。
2010年9月
(敬称略)