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研究助成

成果報告

2009年度

冷戦下の同盟内力学
― アメリカ・西側諸国・第三世界による「中枢-周縁」構造の分析

愛知県立大学外国語学部准教授
小川 浩之

 冷戦は終結から20年を迎え、あらためて大きな学問的、社会的関心を集めている。冷戦という戦後世界を大きく規定した事象を歴史的に解明することを試みる「冷戦史」研究も、2010年春に刊行された3巻本の『ケンブリッジ冷戦史』(Melvyn P. Leffler and Odd Arne Westad, eds., The Cambridge History of the Cold War, 3 volumes, Cambridge, 2010)に代表されるように、国内外において非常に活発化している。
 この共同研究では、まず、『ケンブリッジ冷戦史』の共編者で、冷戦史研究の第一人者のひとりであるウェスタッドの著書(Odd Arne Westad, The Global Cold War: Third World Interventions and the Making of Our Times, Cambridge, 2005)の翻訳およびそれを手がかりとした冷戦史の再検討に取り組んだ。そうした中で、2009年11月に神戸国際会議場で開催された日本国際政治学会2009年度研究大会の分科会C-2(アメリカ政治外交)において、The Global Cold Warの書評会を行った。そこでは、同書の翻訳の監訳者を務めた佐々木雄太の司会の下、共訳者2名(三須拓也、山本健)が報告者、共訳者1名(益田実)と本共同研究のメンバー1名(青野利彦)が討論者を務めた。この分科会では、同書をどう読み解くかにとどまらず、冷戦理解、現代国際政治理解の方法をめぐって、フロアとの質疑応答を含めて有意義な意見交換が行われた。
 The Global Cold Warの翻訳書は、2010年7月に、O・A・ウェスタッド著、佐々木雄太監訳、小川浩之・益田実・三須拓也・三宅康之・山本健訳『グローバル冷戦史―第三世界への介入と現代世界の形成』として、名古屋大学出版会から刊行された。同書では、まずアメリカとソ連(ロシア)の外交政策の伝統について、それぞれ「自由の帝国」「公正の帝国」という観点から歴史的に捉え直す作業が行われる。そのうえで、それらのモダニズムを指向する普遍主義的なイデオロギーに基づく超大国の対外的介入と、そうした介入に対する第三世界からの反抗(ナショナリズム、社会主義思想、イスラーム主義などに基づくもの)の相互作用が実証的かつダイナミックに分析される。同書は、原書自体ですでに高い国際的評価が定着しているが、今回の翻訳書の刊行により、日本国内でより広い読者の手に取られ、日本において最先端の冷戦史研究に関する理解を深めることに貢献することが期待される。
 本共同研究ではまた、『グローバル冷戦史』の翻訳を基礎としつつ、日本人の中堅・若手研究者による冷戦史の共著論文集の刊行を目指した作業にも着手した。特に、『グローバル冷戦史』翻訳の過程で、共訳者は、超大国と第三世界という同盟構造の「両端」に注目するウェスタッドの視点の重要性を共有しつつも、さらにそれらの「中間」に位置する西側先進国や東欧の社会主義国が冷戦構造の形成、変容、終結に及ぼした影響を視野に入れることが、冷戦の全体的理解を促すために必要ではないかと判断するに至った。その結果、上記の共訳者五名に、青野利彦(アメリカ外交史)、齋藤嘉臣(デタント研究)、橋口豊(英米関係史)を加えた研究組織を形成し、さらにそれぞれイギリス、東ドイツ、西ドイツの外交史を専門とする芝崎祐典、清水聡、妹尾哲志にも研究協力者として支援を仰ぎ、これまで四回の研究会を開催してきた。現在までに各自の研究構想はほぼ出揃っており、今後は、具体的な一次史料の調査や研究会での発表と相互の批評、全体的な調整などを通して、共著論文集の刊行に向けた作業をさらに進めることが課題となる。
2010年9月
(敬称略)

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