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研究助成

成果報告

2009年度

東アジアにおける生命倫理政策に関する学際的検討

東京大学大学院医学系研究科助教
井上 悠輔

 20世紀後半から21世紀にかけて、医学・生命科学の急速な展開がみられ、家族や生命のあり方に新たな問いが提起されている。生殖補助医療や遺伝子医学、移植医療等の先端医学、および終末期の意思決定や安楽死といった終末期医療などによる、生命・医療倫理の諸問題は、洋の東西を問わず大きな課題である。
 この中で、東アジア、とりわけ日本、中国語圏、韓国における生命倫理政策の特性に関する検討は、世界的にも端緒についたにすぎない。倫理原則と現実の政策対応との調整をめぐる欧米での議論が、東アジアではどのように展開しているかを検討する視点はユニークであり、研究と並行してアーカイブが整備されることの意義も極めて大きい。この観点から、現在、東アジア諸国における法制度及び制度運用の実態について、欧米および日本に関する既存の蓄積との比較による位置づけを通じて学際的に特性を明確化すること、またその過程において特定した政策資料を体系的に整理し、公開することを目標として作業している。
 各自の関心は様々であり、また作業自体も進行中であることから、そのそれぞれの仔細に触れることは困難であるが、大きく臓器移植におけるドナーとレシピエント館の関係、幹細胞研究における細胞分化とその構成をめぐる議論がこの期間の主たる活動であった。前者については、韓国の臓器移植法改正法案、イギリスの臓器配分に関する新指針等を調査し、日本の臓器移植に関する政策の動向とあわせて比較検討した。初期的な成果はAsian Bioethics Review誌にて報告したほか、続報を2010年夏の10th World Congress of Bioethics(シンガポール)にて示した。後者については、主に幹細胞研究等における人=動物の身体要素の交雑をめぐる検討を開始しており、その初期的な検討の成果を公表した。この他にも身体組織の医学研究目的での利用について執筆をすすめている。
 プロジェクト自体はまだその端緒に過ぎないが、きわめて重要な段階においてご支援をいただいているサントリー文化財団のご厚意に深く感謝する。今後も、海外の研究者との交流を深めつつ、この間の作業を次なる段階に活かし、この新分野の開拓に尽くす所存である。
2010年9月
(敬称略)

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