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研究助成

成果報告

2009年度

ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)は高齢者の健康にどのような影響を与えるのか

日本大学法学部教授
稲葉 陽二

1)研究の進捗状況
 高齢者の健康を社会関係資本の観点からみるために、ソーシャル・キャピタル研究会とワークショップを合計4回実施し、先行研究の検討を実施し、その結果を踏まえて本にまとめました。

第1回 平成22年2月15日
テーマ:「高齢者就業の効果-徳島県上勝町調査」
講師:徳島大学医学部教授 多田敏子先生

第2回 平成22年3月13日
ソーシャル・キャピタルワークショップ+シンポジウム
テーマ:少子高齢化時代におけるソーシャル・キャピタルの政策的含意
講師:東京大学大学院 高木大資先生ほか

第3回 平成22年3月16日
ソーシャル・キャピタル研究会
テーマ:「産業・労働社会における人間関係」
講師:大妻女子大講師 石田光規先生

第4回 平成22年4月26日
ソーシャル・キャピタル研究会
テーマ:「寛容な社会を支える情報通信技術」
講師:国立情報学研究所 情報社会相関研究系 助教授小林哲郎先生

これらの実績を踏まえて、先行研究の論文サーベイを以下の9つの分野で実施し、これに座談会形式の論考を加えて論文集『ソーシャル・キャピタルの可能性』(仮題)を作成し、ミネルヴァ書房から出版していただくこととなりました(2010年12月に上梓予定)。

2)研究の成果・研究によって得られた知見
 社会関係資本は学際的な研究が求められる分野ですが、本研究により経済学、経営学、開発論、政治学、NPO論、社会心理学、教育心理学、社会疫学などの様々な分野での最新の研究成果を共有して学際的研究を進めるための基盤作りができました。
 具体的な成果としては、いずれの分野でも社会関係資本が大きな影響を持つことを検証する論文が多数発表されていることが確認されました。例えば、社会疫学の分野では、幼児世代、子供世代、働き盛り世代、高齢者世代の4世代にわけて、2009年末までの世界の研究論文の成果をサーベイしました。方法論上の課題はありますが、どの世代も、社会関係資本を含めた社会的要因に健康状態が影響を受けるとする論文が数多くみられ、特に社会関係資本と主観的健康およびメンタルヘルスとの関連を示唆する研究成果がみられました。特にメンタルヘルスに関しては、従来考えられていた、働き盛り世代や高齢者世代だけではなく、幼児世代や子供世代にも社会関係資本のあり方が影響を及ぼしているとする論文結果が明らかになっています。また、高齢者に関しては、格差が社会関係資本の毀損をとうして高齢者の主観的健康に影響を及ぼすという結果が日本でも実証されています。
 また、研究会では徳島県上勝町の事例など、社会参加を反映した社会関係資本が高齢者の健康に影響を与える可能性がある事例が複数確認されました。

3)今後の課題
 本研究の成果を踏まえて、郵送法による調査を実施していきたいと考えております。貴財団からのご助成によりそのための基盤として予備調査と先行研究サーベイを通じて、学際的研究者のネットワークを構築することができました。今後はこのネットワークを具体的な政策提言に結びつく調査の実施に如何に生かしていくかについても大きな課題と考えております。
2010年9月
(敬称略)

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