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研究助成

成果報告

2008年度

まちづくり・地域力とソーシャル・キャピタルに関する研究

京都大学名誉教授
山田 浩之

 本研究は、地域の発展をめざす「まちづくり」はどのように進められるべきか、という問題意識の下に、最近よく使われる「地域力」という概念の内容を深めつつ、その基礎となるソーシャル・キャピタルの意義を、3つの具体例の中で、解明しようとするものである。

1)第1の具体例は、京都市の小・中学校廃校の跡地利用による新文化拠点建設のプロセスの問題である。この問題を理解するためには、京都市の文化政策の展開過程の中で分析する必要があり、京都市の文化政策の歴史をとらえる研究を行いつつ、新文化拠点(京都芸術センターやマンガ・ミュージアムなど)建設において、学区の自治会(地縁ソーシャル・キャピタル)が重要な役割を果たしていることを明らかにしつつある。なお、京都市の文化政策については、京都市は近代化(文化開発)と伝統の保存・継承の二兎を追ってきたこと、それは時には対立・紛争をもたらしたが、全体としては京都市の発展に貢献していることを見出している。

2)第2の具体例は、まつりを運営する祭礼団体におけるソーシャル・キャピタルの構造と行政による支援の問題である。この問題については、岸和田のだんじり祭に関する最初の成果(「都市祭礼の社会経済的側面」季刊文化経済学6巻2号)を2008年9月に公表できたので、本年は、だんじり祭を祇園祭や天神祭と対比しつつ、祭礼団体のソーシャル・キャピタル的性格を明らかにしつつあり、その成果は、国際文化政策研究教育学会主催『文化政策セミナー』(9月5・6日)において、「伝統的祭りの変容と地域社会への寄与」(石田信博)、「関西におけるだんじり祭の分布と変容」(井上馨)、「だんじり祭りの維持と変容」(吉田竜司)、「伝統的まつりの変容」(山田正人)と題して報告される。また、日本計画行政学会(9月12日、高松市)において、山田浩之・井上馨は「祭り文化とソーシャル・キャピタル,観光行政」と題する報告を行う。(この報告原稿[予稿集掲載]は、助成報告書に添付)

 以上の研究において、現代の祭りは、神事・祭礼行事・観光行事の三層構造となっていること、祭礼団体は、文化資本として、またソーシャル・キャピタルとしてまちづくりに重要な役割を果たしていること、行政の支援には、消極的後方支援型(岸和田市)と積極支援型(京都市)とがあることが明らかにされている。

3)第3の具体例は、交通分野での市民団体の役割の問題であるが、LRTの存続に成功している岡山市と存続できなかった岐阜市とを対比すると、市民団体がソーシャル・キャピタルとして機能しているか否かが極めて重要であることが明らかにされた。

 今後の課題としては、第1に、ソーシャル・キャピタルと地域力・まちづくりの関係について、より多くの例を参照しつつ、理論的・実証的分析を深めることである。第2には、ソーシャル・キャピタルとして機能する市民団体(NPO、ボランティア、地域団体など)が行政とともに、地域の文化の発展にどのように貢献すべきかを追及してゆきたい。

2009年8月
(敬称略)

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