成果報告
2008年度
沖縄の環境保全と意思決定に関する学際的研究
- 沖縄大学人文学部准教授
- 松本 晶子
研究テーマを「沖縄の環境保全と意思決定に関する学際的研究」と題し、研究活動は以下の通りに実施した。
2008年9月27日、第3回研究会(京都大学)。山岸俊男「信頼と社会的知性」、山極寿一「類人猿を対象としたエコツーリズムの実情」、朝倉輝一「公共性(公共圏)とは何か」。環境問題では、地元住民とそれ以外の人の間に対立が見られる。信頼関係を回復することが大事である。一般に日本人は他人をあまり信じないという特性がある。アフリカでは、地元住民の協力を得るうえで、子どもたちへの協力を掲げると効果があった。同年8〜12月、環境問題と環境教育に関する意識調査。沖縄大学大学生および鹿児島県屋久島でおこなった野外体験調査に参加した大学生・大学院生を対象に、環境問題と環境教育に関する意識調査アンケートをおこなった。両者の結果を比較した結果、自然体験が環境に対する情報を与える、別の活動に参加するきっかけになることが示された一方、既存の環境教育には実習が少ないことが指摘された。
同年9月〜2009年3月、サンゴ礁保全に関する住民の意識調査。座間味島の住民を対象に、サンゴ礁保全のための公共ルール作成が可能かを把握するための意識調査をおこなった。「目的税」などの導入については、行政が信用できない、サンゴ礁利用産業従事者が負担すべきだという否定的な意見がみられた。
2008年12月、「地域ブランド戦略」でトップ3にはいった石垣島、竹富島に行き、エコツアーの現状、移住者の推移やその後の定着率、行政の対応について、現地の不動産業従事者から聞き取り調査をおこなった。また、那覇市の不動産業従事者からも聞き取り調査をおこない、比較をおこなった。
2007、2008年の研究の成果の一部は、2010年1月30日に一般公開シンポジウム「沖縄の環境保全と意思決定 ―人の移動、環境・文化の関わり」を開催し報告を行った。山岸俊男「社会的ジレンマとしての環境保全」、佐藤哲「地域の取り組みを支えるレジデント型研究機関…石垣島白保の取り組みと地域環境学ネットワーク」、山極寿一「アフリカの熱帯雨林に学ぶ人と環境:ゴリラ観光の光と影」、指定討論者:太田至、司会:松本晶子。
本講演は、平成20・21年度に「沖縄の環境保全と意思決定に関する学際的研究」という研究課題でサントリー文化財団人文科学、社会科学に関する研究助成を受けた成果の一部を紹介するために開催したものである。アフリカの環境保全活動は、日本より早くからおこなわれている。その背景には、ヨーロッパ諸国と近くその影響を受けること、目立つ大型の動物が生息することがあげられる。われわれは先に起こった事例に学び、地域の自然・社会環境を尊重して保全しながら、そこに住む人々にとって持続可能な開発をおこなっていくことが必要である。科学的な観点からの取るべき対策、地域住民の認識や意見、政治経済のあり方といったものについて議論が行われた。
2010年1月31日、集団と社会、移動を共通テーマとして研究会を行った。辻和希「昆虫社会における進化的コンフリクトと自律分散制御」、西條辰義「囚人のジレンマゲームにおける100%の協力」、太田至「アフリカ牧畜社会における移動・環境利用・民族間の関係」。これら3名の話題提供を受け、人間社会における集団の形成、そのなかでの社会関係、そして集団の移動や集団間の関係について活発な議論が行われた。またそれらを沖縄における地域集団と環境の関係や、外からの人の移動を考えるうえでどのように生かしていけるのかということについても議論された。
(2009年9月)
(敬称略)