成果報告
2008年度
歴史の中のイギリスとヨーロッパ:「総合外交政策史」的アプローチの構築
- 三重大学人文学部教授
- 益田 実
島国イギリスは大陸にどのように関与すべきなのか。新たに誕生しつつある「共同体」に積極的に参画していくべきか。民主主義の欠如、官僚による支配の危険を持つ統合に距離を置き、イデオロギー的にも国益上も多くを共有しているアメリカとの同盟関係を強化すべきか。この問題について本研究遂行者は、2008年10月日本国際政治学会研究大会の分科会セッションにて、中間成果を報告し、フロアとの間で充実したディスカッションを行うことができた。
そこで得られたコメントもふまえ、2009年1月、細谷雄一編『イギリスとヨーロッパ―孤立と統合の200年』(勁草書房)を世に問うことにより、多様な視点からの一定の中間的回答を提示することができた。同書は、1815年ウィーン会議後の「ヨーロッパ協調」から、二度の大戦を経て、現在に至るイギリスとヨーロッパとの関係を、最新の研究成果と新たに公開された一次史料を材料として、概観するものである。
同書の中での議論は、明快な知見という形に単純に要約することは困難である。あるときは帝国と大陸の間で、あるときは大西洋を挟む米欧間で、あるときはコモンウェルス、大陸、合衆国の三者の間で、政治、経済、安全保障といった様々なイッシューをめぐりイギリスの進路は揺れ動いてきたのであり、今もそしてまたこれからも揺れ動き続けるであろう、と言うしかない。
上記共著書刊行後、2009年1月31日には北海道大学において公開シンポジウムを開催し、大陸ヨーロッパ、日本、アメリカ、中国といった諸国の近現代の近隣諸国/同盟国との外交について深い造詣を持つ異分野の研究者とのディスカッションを行ったことにより、今後の研究課題もある程度明らかになったと言える。
すなわち、本研究の成果を踏まえ、今後目指されるべき課題は、イギリスの対ヨーロッパ外交についての研究参加者達の解釈を、例えば、ヨーロッパとアメリカの狭間で自らの将来を思い描くイギリスと同様に、アジアとアメリカとの間で進むべき進路を模索する存在である日本の対応と対比してみるといった視野の拡大である。逆にまた、21世紀の世界において「東アジア共同体」をどのように構築すべきか、どう関与すべきか、国内外の議論が活性化しつつある今日、過去二百年の国際関係の歴史の中で、イギリスがヨーロッパ大陸とどのような関係を構築し、どのように協力と統合を進めてきたかを考えることは、興味深いいくつもの示唆を与えるものであろう。
2009年8月
(敬称略)