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研究助成

成果報告

2008年度

裁判員は裁判官よりも懲罰的か?
― 犯罪及び刑事政策に対する国民の意識と知識、情報提供によるその変化に関する調査

ロンドン大学法学部教授
マイク・ハフ

研究の成果

・2009年4月4日に早稲田大学において審議型意識調査を実施。50名が参加。丸一日かけて死刑制度について審議。審議は、死刑制度に関する情報提供セッション、参加者同士でのグループディスカッション、ゲストスピーカー(死刑賛成・反対それぞれの立場から各1名)による講演と質疑、参加者同士でのグループディスカッションからなる。なお、審議参加の前後に態度を測定するための意識調査を実施し、審議参加後の態度変化別に10人に対してフォローアップ・インタビューを実施した。
・調査結果の概要(英文)が、テンプル大学日本校のInstitute for Contemporary Studies (ICJS)に掲載されている。(“Japan Related Politics and Society”を参照)

研究で得られた知見

・情報提供と審議を通じて、参加者の4割は死刑制度に対する態度を変化させた。態度の変化では、「存置派」から「廃止派」もいれば、「廃止派」から「存置派」もいた。
・死刑制度に対するそれぞれの態度にたどり着いた理由、あるいはその態度を支持している理由は、同じ態度を選んだ者同士(例えば、存置派同士)でも多様であることが明らかになった。
・審議での死刑制度の存廃に関する議論では、「被害者のために死刑はあるべきである」という主張が、死刑存置派の多数意見であったと同時に、その主張は廃止派にも共通してみられた。
・審議に参加することで、死刑制度に関する自分の意見や考えと異なる他者の意見や考えに対する「許容度」および「理解度」が上昇している。こうした変化は、自分が知らなかった情報にふれたり、他人との審議に参加したことから生じたものと考えられる。
・調査参加前の参加者は、死刑制度についての知識や理解が乏しかった。知識の乏しさは、死刑制度に関するだけでなく、裁判の仕組み等の刑事制度一般に関しても当てはまった。
・調査参加前の参加者は、死刑制度に関する情報や知識の欠如だけでなく、犯罪の動向および刑事政策に関して、事実と異なる「情報」を信じている者が多く見られた。こうした誤った理解は、正しい情報を提供した後に正しい認識に変わる者が多かったものの、誤った認識を持ち続ける者もいた。誤った認識がどれほど死刑制度に対する態度に影響しているかに関しては、さらなる調査研究が必要である。

今後の課題

・2009年9月および10月の学会報告(日本犯罪社会学会、日本社会学会、ヨーロッパ犯罪社会学会)が受理されており、また日英の査読付きの学術論文誌への掲載を予定している。
・本調査で学んだ点を生かし、来年度により規模の大きい審議型意識調査を実施する

2009年9月
(敬称略)

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