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研究助成

成果報告

2008年度

テロ対処における多国間枠組みの可能性と課題
― 日本の対テロ国際協力への提言

防衛大学校人文社会科学群教授
広瀬 佳一

研究活動の概要

 本研究は8名のメンバーからなり、欧州、アジアの各地域機構(NATO、EU、OSCE、SCO、ASEAN)のテロ対策、そして米国を中心とする有志連合的な取り組み、さらには国連のグローバルなテロ対策を分析した。
 2008年10月には日本国際政治学会において部会「テロ対処における多国間枠組の可能性と課題」を開催し、3人のメンバーが中間報告を行った。また、日本の対テロ対処も検討するために、08年11月に陸上自衛隊中央即応集団司令部・研究本部(朝霞駐屯地)などを訪問した。海外調査については、研究会メンバーが、09年2月にニューヨーク、09年5月に欧州に渡航して実施した。
 2009年8月現在、研究成果をミネルヴァ書房から『対テロ国際協力の構図-多国間連携の実態と課題』(仮)と題して出版することが決定しており、研究会メンバーは原稿執筆作業に入っている。本書は2010年1月に刊行予定である。

知見と今後の課題

 それぞれの機構によってテロに対するアプローチは異なる。それは地域で直面するテロの脅威や性質、歴史、さらには各国の国益や安全保障上の認識の相違から考えれば、自然ではある。欧州や東南アジアではhome-grownテロの問題があるだけに、地域ごと、国ごとのきめ細かさが要求されるところである。
 また、地域で反テロ協定などが締結されても、その実体は域内協力を制約する側面がある(例えば東南アジア)。情報共有はテロ対策の根本だが、同一地域の機構間でも、同一機構の加盟国間でもその難しさは確認された。
 その一方で、地域横断的に活動するグローバル・テロリズムに対処するため国連がすべての加盟国そして地域機構に要請しているのは、グローバルな視点に立った共通のテロ対策である。しかもそれは、資金規制、大量破壊兵器関係のテロ防止、輸出管理、出入国管理、交通保安をはじめ多方面の分野に及ぶ。破綻国家対策からテロ温床環境の改革、法と人権の尊重まで含まれる。各国、各機構が足並みをそろえるのは容易ではないのが現状だが、規範や認識の浸透、政策の進捗など確実な歩みがみられた。
 対テロの効果を考えるためにも、多国間枠組みの実体と機構相互の関係、そして取り組みの成果をさらに精査していく必要がある。
 日本の政策へのインプリケーションであるが、東アジアに安全保障の多国間機構がないために、他の機構の経験をそのまま生かすことはできない。とは言え参考になる点も少なくなく、例えば日本も他国に対するキャパシティ・ビルディング(対テロ能力向上)を実施しているが、それを総花的に行うのではなく、より効率的な優先順位付け、他の支援国家との役割分担などが求められる。

2009年8月
(敬称略)

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