サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > Boston美術館(Museum of Fine Arts, Boston)所蔵日本資料調査

研究助成

成果報告

2008年度

Boston美術館(Museum of Fine Arts, Boston)所蔵日本資料調査

九州大学名誉教授
中野 三敏

 ボストン美術館(Museum of Fine Arts, Boston、以下「MFA」と略す)は、岡倉覚三、William Sturgis Bigelow、Edward・Sylvester Morse、Ernest・Francisco Fenollosa などの先人たちの収集のおかげで、日本関係資料の宝庫として有名である。本研究プロジェクトの対象である和本は、『ボストン美術館百年史』(1970年刊)編纂時には、その存在さえ知られていなかったが、浮世絵が約5万枚も所蔵されていることから勘案して、絵本をはじめとする和本が所蔵されているかもしれないという推測はあった。その推測通り、今やボストン美術館WEBには、多くの和本が収録され、「Ehon+kibyoshi」などのKey Wordによって、約300種の和本の書誌データを観覧することができる。この貴重なデータは、所蔵品はすべてWebで公開するというMFAの寛大なる方針に基づいて、浮世絵スペシャリストであるRoger Keyes氏によって僅か10ヶ月という限られた時間で整理・分類されたそうだ。

 我がチームがMFAに到着したとき、日本美術研究員Rachel Saunders氏によって、約3000種・約8千冊(推定)に及ぶ和本が収蔵庫に見事に管理されていた。現地で我々が知見を得たことは、現段階でWeb公開されているのはごく一部の書誌データであって、そのデータを完全にすることと、全収蔵品をデータとして蓄積することが当面の目標のひとつであるということだった。現に過去三年間で、約2000書名、6000以上もの高品質デジタル写真が、美術館内部のデータベースからWebへと転送され、公開に至っている。数年後には、日本におけるMFA展の企画が進んでおり、この和本整理への期待は大きな高まりを見せている。

 今回の調査における主な成果は、次の3点である。

 まずひとつめは、浮世絵として分類されていた作品から、絵本約200種を発掘できたことである。これらの絵本は糸がほどかれ、本の体裁を取らずに一枚一枚のシートの状態で保存されていたために、浮世絵と見做されていたのだった。この発見によって、MFA所蔵の和本は、約3200種程度に達すると予想される。

 また書誌データの充実へ向けて、今後の協力態勢を確立できたことも大きな成果であった。下記にその一事例を上げたが、これまで不明であったタイトルの確認、同一書名本が数種類あるときによく起こる「取り混ぜ」の解決等をはじめとして、MFA所蔵和本整理・管理・開発を理想的な形にしていくために協力し合っていきたい。

事例:合巻「妹背山長柄文台(いもせやまながらぶんだい)」
znew/885025、山東京伝作・歌川豊国画 文政9年刊、中本合1冊(前編3巻3冊後編3巻3冊)、表紙改装(桃色)書き題簽、柱題「いもせ山」、序題「久我之助/ひな鳥 妹背山長柄文台(いもせやまながらぶんだい)」の下に版元名「江戸通油町/鶴屋喜右衛門板」、最終丁に「豊国画(書判) 山東京伝作(印)」、版元(江戸)鶴屋喜右衛門、*京伝の引札風序文に「文化八年辛未四月稿成/九年壬申春新絵草紙」とあり。外題の読みもこの序の振り仮名に従う。版元:鶴屋喜右衛門 巻末に鶴喜の「文化九歳壬申春新版稗史目録」(14点)を付す。
 最後に特記すべき成果は、体系的な書誌データ作成の協議を開始し、今後、その方針を相互に話し合いながら、数年のうちに書誌目録を作成することを合意したことである。

2009年8月
(敬称略)

サントリー文化財団