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研究助成

成果報告

2008年度

政界再編期における政治指導
― 政党、官僚、世論

慶應義塾大学総合政策学部専任講師
清水 唯一朗

 本研究は、いまからおよそ100 年前、大正初期に起きた政界再編(大正政変)に際していかなる政治指導が行われたのか、問題点は何であったのかを明らかにすることを通じて、わが国における政治変動と政治指導のあり方への視座を見いだすことを目的として行なった。
 研究に際しては、これまでその膨大さゆえに等閑にされてきた根本資料『原敬日記』を中心題材としつつ、政治学、政治史、政治思想史、行政学、メディア論など多様なバックグラウンドを持ったメンバーが、それぞれの専門分野から一次史料を集め、政界再編の構造と、それを巡る政治社会集団の動きに迫った。
 明治から大正へと時代が移る中で、大きく変化していたのは、政治のスタイルであった。明治維新の元勲、いわゆる元老たちの間で非公式に持たれていた交渉は、政党勢力の伸張にともなって、予算・法案の事前説明をはじめとする政府-政党間交渉にシフトし、それが定例化していった。こうした公式のルートに加えて、特定の専門分野を有する議員も登場するようになり、彼らが各省の官僚と密接に結びついて法案成立をサポートする形式も目立つようになってきた。この明治末期から大正中期にかけての時期において、換言すれば、日露戦後経営の過程において、日本政治は行政―立法関係をシステム化していき、それによって政党政治実現の制度的基盤が形成されたとみることができる。
 今回、こうした政策形成の実際に立ち入って考えることが出来たのは、これまで個人が自らの関心のみから、研究に直截に引用することばかりを考えて向き合ってきた史料を、共同研究という形で多数の関心から捉えなおす試みを行なったことにある。政治的多元性を重視し、政策過程を分析しようとする現在の研究潮流に鑑みると、個人の研究はもちろん重要であるが、こうした共同研究によって史料に向き合う方法も、より一層模索されるべきであろう。そうした見地から、まず本プロジェクトは、史料の読み解きを軸に据えた研究成果を世に問う。この成果については、今年度中に中央公論新社から刊行される予定である。
 研究助成は本年で一旦終了となるが、研究会はこのまま継続していく予定である。大正前期に形成された行政―立法関係が、政党政治期に至りどのように変容し、その後の官僚内閣期、戦時期、さらには戦後に繋がっていくのか。長い射程で議論を続けていきたい。

2009年9月
(敬称略)

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