成果報告
2008年度
ロシアの人口減少・労働市場と経済成長
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日本との対比
- 大阪産業大学経済学部教授
- 大津 定美
昨年に引き続き継続して助成を受けた本研究プロジェクトの狙いは「ロシアの人口減少と経済成長」の問題を日本との対比において明らかにすること、それも文献だけでなく現地調査により、地方の労働市場状況に目を配る形で実施する、ことにある。昨年の報告で述べた研究の重点は継続しているが、他に2008年9月、2009年6・7月に実施したロシア・サンクトペテルブルクに置ける現地調査の一部を含め、以下にロシア全体の状況と一つの地域について要点を記す。
I、ロシア全体の人口不足と労働市場。
ロシアの人口減少は続いており、2000年代に入り、経済成長が軌道に乗り始めると、労働市場の逼迫は経済全体の問題として一層強く意識されるようになった。人口減少が及ぼす社会的影響にかんしては、各階層・地域で頻繁にシンポジウムや学会が開かれ、種々の対策が提唱されてきた。政府も「家族」「教育」などのテーマの国家プログラムを立ち上げ、その中で「母性資本」、高等教育改革と教員給与の引き上げ、「高齢者再雇用増大プラン」など種々の具体策を打ち出している。しかし、労働市場の状況は地域でかなり異なり、政策の具体化にもきめ細かな配慮が必要である、という事情は日本ときわめて酷似している。我々の研究・調査もロシアの地域への目配りが欠かせない事情がここにある。また、08年秋からの金融危機とロシア労働市場の激変は新た問題を提起している。
II、サンクトペテルブルクでの現地調査
研究代表者の大津は、09年6月から9月初めまでサンクト・ペテルブルク市に滞在、この間断続的に、昨年9月の調査のでは、雇用センターや統計局で市やレニングラード州全体の状況、就業構造について、聞き取り・資料収集を実施。またサンクトペテルブルク大学経済学部の斡旋で以下の企業を個別に訪問し、労働市場のミクロ的状況、人事・労務関係の実情に詳細に接する機会をえた。
(1)大型トラック製造会社「キーロフ工場」、
(2)「人材派遣会社Boiden、サンクトペテルブルグ支社」
(3)土木・建設会社「ゲオイゾル」本社
ほか。
III、2009年夏までのロシア労働市場概況
世界同時不況の荒波がロシアにも及び、銀行や証券会社の倒産、製造業企業の減産、人員削減が進んだ。まず、総失業者数は、長期的には漸減してきたが、08年5月に最低の409万7千人を記録した。これをボトムにその後急速に増え始め、10月には500万人を、2009年1月には610万人に、3月にはあっという間に712万人に達した。政府は失業者救済、企業への雇用維持への補助など、未曾有の危機への対応に追われた。こうした動きは、日本や欧米と軌を一にしているが、ロシアでは高いインフレ率が収まらず、大多数の国民生活は貧窮の度を深めている。(この間の事情は下記の大津『世界』論文に詳述)。
今年度発表を予定している研究成果では、こうした急変を見せるロシア労働市場の構造と動態を、日本の場合と比較しながら、解明することにしたい。
2009年10月
(敬称略)