成果報告
2007年度
ドイツの「家族のための地域同盟サービスセンター」の活動と地方自治体の少子化対策
- 筑波大学大学院人文社会科学研究科 教授
- 本澤 巳代子
本研究は、2006年度の助成研究「地域経済と少子化対策の融合〜ドイツの「家族政策地域同盟」の実例を参考として〜」により得られた成果を発展させることを目的としたものである。本研究は、ドイツで行った地域同盟の聞き取り調査の結果から見えてきた地域同盟の実体、すなわち何か課題があるときだけ活動するもの(ライプチヒ市)、市長がイニシアチブを持って積極的に活動しているもの(フランクフルト市、バイロイト市など)、大小の企業が学習の場として経験交換をすることから始めているもの(キール市)など、その構成や活動の態様や内容は種々様々であることを前提に、こうした多様な地域同盟の設立や活動について助言を行い、他の地域同盟の経験を活かすための相互連携の支援をしている「地域同盟サービスセンター」の活動をより具体的に調査し検証すること、とくに地方自治体における少子化対策としての成果を現地における聞き取り調査等を通して明らかにする方法を採るものである。
2007年10月には、ドイツ側の招聘で渡独した本澤が、マイヤーグレーヴェ教授の紹介で、2006年に終了したモデル事業の一つを担っていたハーナウ市(市長とプロジェクトリーダーの熱意により地域同盟活動が積極的に推進されている)において、今後の活動方針を協議する地域同盟の会議に参加することができた。地域同盟の活動に参加してきた市民達が4グループに自由に分かれ、それぞれのテーマ設定の下にグループリーダーと専門家による問題提起を基に今後の活動の重点を協議した上で、全体会で協議結果を報告し合うことによって、地域同盟全体の意思統一を図るという方法が採られていた。2008年3月には、研究メンバーの原がフライブルク市を中心に現地調査を行った。この調査は、札幌市とフライブルク市の人口構造や少子化の原因などをマクロ社会学的に分析し比較するために必要な資料・情報収集を目的としたものである。2008年7月には、国際会議で渡欧した姫岡がベルリンの家族省およびギーセン大学のマイヤーグレーヴェ教授などから、この1年間の家族政策の動向などについて、聞き取り調査を行った。
本研究の結果、知りえた情報の主なものは、以下の通りである。2008年7月31日現在、ドイツ全国にある地域同盟の数は507にのぼっている。とくにノルトライン・ヴェストファーレン州およびヘッセン州南部など、人口の集中している地域で多くの地域同盟が設立されている。これに対し、ザーラント州で地域同盟が密集している理由は、州の家族省大臣が地域同盟の設立に非常に熱心であるためとのことである。しかし、いずれにしても2004年以降、毎年約100の地域同盟が新たに設立されてきたということになる。2004年の年頭に設置された地域同盟は既に5年目に入っているのに対し、新たに生まれる地域同盟もあり、このような状況に対応するために、地域同盟の設立や活動を支援する「地域同盟サービスセンター」の活動も多様化せざるを得ない状況にある。また、2007年5月には、3歳未満の子ども達のための保育所定員を、28万5千から2013年までに50万人分増やすとの方針を家族省大臣が宣言したため、保育所設置について直接的に財政負担を背負うことになる地方自治体の政策および当該地域同盟に対する助言や支援も新たな課題として加わってきた。
2003年に家族省の募集した家族政策推進事業を落札したスタートしたヤン・シュレーダー・コンサルタント会社(介護保険制度導入により、社会福祉活動団体等に対する相談助言を目的としてきた)が考案した「家族のための地域同盟」であるが、5年目となる2007年末を前に、2007年8月15日締切りで、保育所等の設置・活用なども加えた新たな事業の募集があり、EUでも高く評価されてきた地域同盟の考案・推進者であったヤン・シュレーダー・コンサルタント会社も新たな事業計画を策定し、家族省の競争入札に参加しなければならなかった。2008年3月(1月の入札結果発表が3月にずれ込んだとのことである)に新たにスタートした地域同盟事業は、ヤン・シュレーダー・コンサルタント会社単独ではなく、他の落札者との競争的共同事業として今後5年間展開されることになったとのことである(2007年8月と2008年8月に本澤の行った聞き取り結果)。その意味でも、今後の地域同盟の展開は、従来とはかなり異なるものになる可能性を含んでおり、本研究の終了した2008年度以降も引き続き注目していきたいと考えている。
なお、本研究の成果を基に、2008年11月13日〜15日、筑波大学とベルリン日独センターの共同主催で、第2回日独国際会議「少子高齢社会と家族のための総合政策」を開催する。とくに14日の専門家会議では、「市民社会政策としての家族政策」として、ドイツの地域同盟の活動とその意義について、さらには日本での地域同盟活動の展開の可能性について日独の研究者・実務家などが協議することになっており、地域同盟サービスセンターの所長であるヤン・シュレーダー博士も招聘することになっている。
2008年8月
(敬称略)