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研究助成

成果報告

2007年度

ボストン美術館(Museum of Fine Arts, Boston)所蔵日本典籍の書誌学的研究
― 岡倉天心とWilliam Bigelowの江戸理解

九州大学 名誉教授
中野 三敏

 本研究の目的は、ボストン美術館(Museum of Fine Arts, Boston)所蔵の日本典籍約8000点の書誌的調査にあった。
 ボストン美術館が多数の日本語古典籍を所蔵していることは、これ迄ほとんど知られていなかった。ボストン美術館関係者によると、図書館ではなく美術館であったことと、それに典籍以外にも膨大な数の日本美術品を所蔵しているだけに、こうした冊子形態の古典籍にほとんど関心が払われてこなかったという。その数、約8000冊。日本に存在しない肉筆浮世絵が700点発見されたように、本調査によって、日本古典籍の海外所在調査は大きく進展するに違いない。
 ただし、本年度の研究推進において、当初の計画段階では予想も出来なかったことに、私達研究チームがボストン美術館を訪問した2007年10月は、ボストン美術館において部門責任者と典籍担当者の人事異動により、当該部門の担当者不在という異例の事態が発生した直後であった。そのために、ボストン美術館日本美術課関係者と協議をし、2008年度以降にボストン美術館の館内人事体制が整備された後、改めてボストン美術館所蔵日本典籍調査を実施させて頂くこととした。
 ところでボストン滞在中、上記のようにやむを得ないデリケートな事情により、ボストン美術館調査は延期しなくてはならなかったが、郊外にあるハーバード大学美術館にも優れた日本典籍が所蔵されていると側聞した。同大学燕京図書館日本部門ライブラリアンKuniko McVey氏の情報提供であった。燕京図書館所蔵本は著名であり、すでに国文学資料館によって、所蔵調査が進展しているが、同大学美術館にも日本典籍が所蔵されているとはほとんど知られていなかった。
 同館には、同大学のフォッグ美術館内に点在していた和古書の大部分がまとめて移管されたのだそうで、西川祐信絵本のみはすでに調査報告があるものの、それ以外はすべて未報告。しかも目録もない。全体を概観して、とんでもない蔵書であることを確信した。簡易目録の作製を打診してみると、それは美術館としても願ったりだという返事に、今回の米国探訪はすべてこの1館のみで十二分の成果を挙げうると確信し、その通りとなった。その調査結果については、別添え報告書に収録したので、それを参照していただきたい。
 当初の研究計画からすると、今年度のハーバード大学美術館調査はあくまでも副次的な成果に過ぎない。予想外に多くの研究成果を得ることが出来、学界にも大きな反響を与えたが、それは次年度以降に本格的に開始されるボストン美術館調査の序章にすぎないと予告しておきたい。

 研究メンバー
・研究代表者:中野三敏(九州大学名誉教授)
・研究協力者:小林忠(学習院大学教授)
・研究協力者:松原孝俊(九州大学教授)
・研究協力者:山田久仁子(ハーバード大学図書館司書)
・研究協力者:An Kitagawa(ハーバード大学サックラー美術館館長)

2008年8月
(敬称略)

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