成果報告
2007年度
国際比較に基づく現代日本研究の方法論に関する研究
- 筑波大学大学院人文社会科学研究科 教授
- 辻中 豊
現代日本の政治過程や市民社会、政治文化の位置づけをめぐる作業は、1990年代以降の経験的分析の蓄積を経て、大きく前進した。欧米を中心とした先進国の中で、特に西欧諸国やアメリカとの比較、韓国などアジアの新しい先進諸国との比較がなされ、最近ではさらに日本を含む相当数の諸国間の比較実証研究も始まっている。
他方で、体系的で総合的な比較研究のためには、理論的検討も不可欠である。比較分析の「共通視角」の設定、比較対象の「比較可能性」の検討、政治体制や発展の段階を超えた比較や対比較や多数比較の「比較方法論」など、理論的作業が必要である。現在までの比較研究は、こうした基礎研究を欠いたまま、正確には欧米の方法論に依拠したまま進行し、その結果、現代日本研究独自の比較理論的な基礎づけやそこからの理論的貢献が少なかったと総括できるであろう。
本共同研究では、こうした基礎研究を通じて、国際比較に基づく現代日本研究の方法論を整備することを第一の目的とする。
その際、政治過程、市民社会を基本的な分析対象として、日米独韓の4ヵ国の多様な分野の社会科学者が共同作業し、政治過程、市民社会分野での研究成果を、そうした方法論に基づき研究成果を出力することも併せて行う。
特に本研究では、日本との比較を念頭に11カ国の実証調査を遂行し、現在も5ヵ国比較調査を実施中の研究代表を中心に、理論的検討を実際の調査方法や分析方法に生かすことができるという意味で、研究と成果が密接に関連した検討となるという特徴を有している。
これまでに辻中、フォリヤンティ、廉、ペッカネンは、地球環境政策や市民社会組織研究として1997年以来共同研究を続けており、4ヵ国の詳細な調査を共同で実施するとともに、2006年以降、第二次の市民社会組織調査を実施中である。他方、川人、加藤、シッパンは、政治過程の計量的、合理的分析について共同研究を開始している。さらに辻中、川人、加藤は、事例研究や計量実証研究など現代日本政治や政治学方法論について、1998年以降2ヶ月1回の割合で継続的な研究会を持っている。こうしたことから、この7名のチームは強力な理論研究への母体をすでに形成している。より具体的には、今年度はドイツ、韓国での2回の調査結果を用いることができる。さらに米国、中国では2回目の調査を控えその企画に検討結果を反映することができ、単に理論研究だけでなく、その成果を実際の実証研究に生かすことが可能となる。
2007年度(07-08年)の成果として10回の研究会、国際ワークショップを持ち、本研究の各国・各地域での検討状況を基本的に把握した。今後はその基礎の上に、成果を共同論文や共同の発表の形で公表していく作業を行う予定である。特に韓国、ドイツ、アメリカ、中国での2回にわたる市民社会組織の調査結果や調査方法の検討を具体的な素材にして検討を行なうことが課題である。他方で、計量分析、事例研究の観点からの検討も行い、実証と対になった方法の検討を定式化することができる。
2008年8月
(敬称略)