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研究助成

成果報告

2007年度

国際関係における「インテリジェンス」の文化史的考察

防衛省防衛研究所戦史部 教官
小谷 賢

 本研究プロジェクトは、20世紀の国際関係においてインテリジェンスが果した役割を検証し、インテリジェンス問題への理解を深めるとともに、今後、日本がこの分野の政策課題にいかに取り組むべきか、また、学術研究の一分野としてインテリジェンス研究をいかに定着させるべきかを模索することを目的に発足した。
 研究助成2年目となる今年の成果の一つは、中西輝政・小谷賢編著『インテリジェンスの20世紀 情報史から見た国際政治』(千倉書房)の刊行である。この共著は、昨年から継続して行ってきた研究会での報告原稿に加え、実務経験者やイギリスから3名の執筆者を招き、国際水準の研究書とすることを目指したものである。日本の学術界においても、特定の分野に関する優れたインテリジェンス研究が既に存在することは論をまたないが、日本・イギリス・アメリカ・中国・ロシア・フランス・ドイツという主要国の情報史を一冊の本にまとめあげた著作は本書が初めてであろう。本書を読んでいただければ、各国の歴史的文脈の中に位置付けられたインテリジェンス・ヒストリーを理解していただけるものと考えている。
 しかし、本書の執筆段階で、各章ごとで扱う時期のスパンや歴史研究としての精度にばらつきが生じるという問題に直面したことも認めねばならない。この要因の一つは、例えば、イギリス・アメリカではかなり史料公開が進んでおり、実証的な歴史研究を行う基礎的な条件が整っている一方で、中国・ロシアに関する史料の入手は困難であるといったように、各国の史料公開の度合いに差があったことである。程度の差こそあれ、史料へのアクセスという問題は、秘密のヴェールに包まれている情報機関の研究を行ううえで不可避的についてまわる問題である。我々は、この制約のもとで、いかにすれば有益な研究をなしえるかを改めて考え直す必要に迫られた。
 この反省が、イギリス・アメリカといったインテリジェンス研究の先進国において高い評価を得ている研究書を改めて精読し、インテリジェンス研究の方法論を再検討するという今年のもう一つの大きな活動へとつながった。本研究グループでは、情報史研究を日本のアカデミズムに定着させるために、インテリジェンス関連の研究書を紹介することを従来から重要な使命と考えており、上掲『インテリジェンスの20世紀』の末尾に「情報史研究のための参考文献」と題した章を設けたり、ブログにおいて重要な著作をとりあげたりしてきた。それに加え、本年度は幾度かの研究会において、インテリジェンス研究の名著とされる著作を読み直し、各著作の執筆の背景、研究手法などを吟味してきた。この成果は、今年中に情報史研究会編『名著に学ぶインテリジェンス』として世に問う予定である。
 以上のように、当研究グループでは、我が国において立ち遅れていると思われるインテリジェンス研究を促進させるべく、インテリジェンス問題に特化した研究を重ねてきた。国際政治におけるインテリジェンスという側面の欠落を補うために、インテリジェンス問題を強調してきた当グループであるが、今後はいかにして政治外交史研究・軍事史研究という既存の学問にインテリジェンスという視野を定着させていくかが課題となろう。
2008年8月
(敬称略)

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