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研究助成

成果報告

2007年度

日中間安全保障対話
― アジアの安定と平和を目指して

NPO法人岡崎研究所 理事長
岡崎 久彦

 本研究の目的は、中国を代表する2つの研究機関、中国社会科学院日本研究所と上海国際問題研究所との研究交流を通じて、日中両国が直面する諸問題及び懸案事項について率直な意見交換を行い、相互に理解を深め、アジアの安定と平和に資することです。
 2007年度の対話は、岡崎研究所の専門家チームを北京と上海に派遣して実施しました。
 07年11月19〜20日、北京で行なわれた中国社会科学院日本研究所との対話では、議題として日中間の経済問題、政治問題、安全保障問題を取上げましたところ、歯に衣を着せない率直な意見交換が行われ、そのハイライトは、中国海軍の空母保有問題でした。その論議の内容は示唆に富むものが多く、中国側のいろいろな本音を引き出すこともできました。空母保有の正当性について中国側が延々と説明しましたが、日本側から「日本が中国の論理をそのまま使って空母保有の正当性を主張できると考えるが、そのことについてどう思うか?」との問いかけに中国側が沈黙する場面もありました。
 上海国際問題研究所との対話は、11月22〜23日、上海で行われました。
 テーマとしては、海上の安全保障問題と日中間の信頼醸成措置、朝鮮半島問題、日中の政治・経済と対外戦略の3つを取上げました。
 中国側は、環境問題、格差社会、経済問題といった国内問題を指摘されても大した反応を示すことはなく、客観的に捉えていましたが、軍事問題、台湾問題、外交問題等に対して懸念が表明されると、それらを打ち消すのに躍起で、外国に対してはとにかく「平和的な発展」というイメージ作りに懸命な姿が印象的でした。対話の回数が増えるに従って中国側の理解と信頼は深まり、一方、最近では日中両国軍艦の相互訪問など、日中関係は海上の安全保障・信頼醸成措置の面で着実な伸展が見られるようになりました。実はその影の功労者は、双方ともこれらの問題に関するその国の最高の権威者をメンバーとして抱えているこの日中安全保障対話であると自負している次第です。
 今年度の日中間安全保障対話の成果は、率直な意見交換によって、確実に相互理解が深められ、アジアの安定と平和に貢献できるということが再確認できたことです。
今年度の研究についての評価及び将来への提言として次の結論に達しました。
1.会議の基本的な原則として、日中双方とも軍事問題の専門家が特別研究員として参加し、非公開の場で「本音」の発言を行い、その内容の詳細は部外に公開せず、紹介する場合にも発言者を特定しないという約束が存在して初めて率直な議論が可能になる。
2.この種の会議は双方同一の研究所のコア・メンバーが継続して、政策指向的な問題意識を持って討議することに意義がある。
3.今後も学術的な論文の発表よりも現状分析を主とし、政策提言を重視したワークショップという性格を維持すべきである。
今後も、これまでに築き上げた信頼関係を基礎に、中国との研究交流を通じてアジアの安定と平和を目指したいと存じます。
2008年8月
(敬称略)

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