成果報告
2007年度
モノの移動と情報から見るグローバルヒストリーの構築
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17世紀から現代まで
- 大阪大学大学院文学研究科 教授
- 秋田 茂
「比較」と「関係性」の二つのキイ概念に着目し、従来の西洋中心史観に基づいた世界経済史、世界システム論をアジア研究の側から相対化し、新たなグローバルヒストリー研究の展望を切り開くために、3年間で、20回のセミナー、8回の国際ワークショップ、1回の国際会議を開催してきた(その詳細については、英文報告書末尾を参照)。そのうち、本助成金は、2007年12月の総括国際ワークショップと、4月初頭の「東アジア地域統合」ワークショップの開催に主として充当した。
(1)2007年12月の総括国際ワークショップで、ヨーロッパとアジアにおけるモノと情報の流れを通じた地域間連鎖・結合の相違と共通性を、双方向的比較(bilateral comparison)の手法を活用して検討した。
その結果、「長期の18世紀」では両地域間でさほど相違がなく同時並行的な発展が見られたこと、また、20世紀後半の東アジア地域の経済的勃興(東アジアの奇跡)は、世界システムにおけるアジア世界の「相対的自立性」を通じて可能になったことが明らかになった。その成果は、英文のProceedingsとして刊行し、さらに英文研究書としての出版の可能性を模索している。
(2)現代の東アジア地域における広域地域統合を歴史的観点から考察し、その独自性を解明するために、大阪大学の学術提携校であるオランダ・グローニンゲン大学の研究者を招聘して、EUと東アジアの地域統合を相互比較する二日間のワークショップを、淡路島・夢舞台国際会議場で開催した。
その結果、制度構築を重視するEU型に対して、東アジアにおいては、APECに典型的に見られるように、域外国にも開かれた「開放的地域主義」(open regionalism)がその独自性と指摘できること、その歴史的背景としては、20世紀初頭から形成・展開されてきたアジア地域間通商ネットワークの形成と人的交流があることを確認した。
(3)世界に向けて研究成果を発表する「情報発信」に力を入れた。研究成果の一部は、Osaka University Global History Discussion Papersとして英語で刊行した(現在9号まで出版)。また、セミナー情報を広く公開するために、独自のホームページGlobal History Online を開設し、英語版も創設した。
(4)さらに国際交流のネットワークを拡大するために、新たに「アジア世界史学会」(Asian Association of World Historians: AAWH)を創設する準備に着手した。2008年5月3-5日に、中国における世界史研究の拠点である天津の南開大学歴史学院において、韓国・日本・中国・シンガポール・マレーシア・インドのアジア6カ国とアメリカ合衆国の世界史研究者が集まり、AAWHの設立準備の討議を行い、設立準備委員会を結成した。AAWH事務局を、大阪大学文学研究科・世界史講座に置く事、第一回国際会議を2009年5月末に大阪で開催することを決定した。それ以来、着々と準備作業を重ねて、現在、最終プログラムの作成段階にある。WHA、ENIUGHなどの関連国際学会とも連携関係を模索している。国内でも、国際政治学会や、社会経済史学会等のニューズレターなどを通じて、AAWH創設の広報を開始している。
2008年10月
(敬称略)