サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 21世紀アジアの御雇い外国人

研究助成

成果報告

2006年度

21世紀アジアの御雇い外国人
― 韓国企業で活躍する日本人エンジニア

九州大学経済学研究院教授
深川 博史

 サムスンや現代などの韓国企業は、産業技術革新のテンポが速く、日本企業を追い越しつつある。とくに一部の家電製品等では、世界シェアで日本企業を引き離しており、世界市場をめぐる競争において、日本企業の脅威ともみなされている。このような韓国企業の世界化現象は、最近の10年で顕著なものとなったが、それらの背景について十分な研究はなされていないようである。これまでには、キャッチアップの背景に、韓国企業の技術投資と技術革新があると言われてきた。確かに、技術投資と技術革新は、これらのキャッチアップの原動力になったと考えられるが、なぜ、そのような技術革新が達成されたのか明らかとは言えない。
 この点について、本研究では、短期間の技術革新について、韓国企業で働く日本人エンジニアの役割に注目した。短期間のキャッチアップの背景には、日本人を中心とする外国人エンジニアの関わりがあるものとの仮説を立てて、ヒアリング等により、検証を進めることが本研究の目的であった。
 ところで、研究を進めるにあたり、本研究では、韓国企業での日本人エンジニア勤務を、日本企業に脅威を与えるものとしてではなく、外国企業に技術貢献するもの、または、技術の世界貢献の担い手として、肯定的に位置づけた。そのことを表現するために「お雇い外国人」という言葉を用いている。外国人エンジニアの技術貢献は日本の勃興期にも存在した。明治期の日本では、欧米からの「お雇い外国人」が、日本の産業振興に技術分野で貢献した。この貢献により、日本は農業国から工業国へと舵を切り、後の飛躍的な経済発展を達成した。韓国における日本人技術者の貢献を、明治期日本における「お雇い外国人」に匹敵するものと捉え、明治期の「お雇い外国人」が日本の産業発展に寄与したように、日本人エンジニアは韓国の発展に貢献していると考えた。
 このような問題意識の下に、韓国企業を訪問して、日本人エンジニアからのヒアリングを進めることとしたが、研究推進の過程では問題にも遭遇した。研究の準備段階から、様々なルートを通じて、日本人エンジニアとの接触を試みたが、研究開始後しばらくの間は、適切なヒアリング対象が、なかなか見つからず、また、エンジニアとのコンタクトに成功しても、ヒアリング承諾までには時間を要した。日本企業を離れて韓国企業で働くエンジニアは、様々な事情を抱えており、その方々の背景事情や技術貢献の現状を知ることには、容易ではないことが判明した。
 このような事情から研究前半期には、ヒアリング対象を、現役として韓国企業に勤務する方々だけではなく、過去に技術移転に関与した日本人エンジニアまで拡大することとした。これらの方々からのヒアリング内容は、過去の話が中心となったが、韓国企業との関わりに経験豊富な、熟練の技術者からのヒアリングでは、韓国の技術風土などについて、鋭い意見を聞くことができた。結果的に、過去と現在の技術移転の比較、技術革新への関与の状況などが検討可能となり、日韓の技術問題は、過去と現在において大きな変化のないことも分かってきた。
 韓国企業に勤務する現役の日本人エンジニアについては、技術移転に関与した方々からのヒアリングを継続しながら、様々なルートを通じて探し続けた。その結果、研究半ばの時期に、サムソン中央研究所常務の日本人エンジニアという、本研究テーマに最適の方に遭遇した。この方については、1度目は会社の外でヒアリングを行い、一定の期間を置いて、2度目は会社の中で、ヒアリングを行った。ヒアリングの内容は刺激的で、本研究には極めて有益なものであり、ヒアリング内容を、調査ノート等にまとめることができた。以後の研究進行においては、この方を中心にネットワークを拡げつつ調査を進めた。成果内容については、当初の仮説をほぼ裏付けるような、証言が得られた。日本人エンジニアは、技術移転だけではなく、技術開発分野にも関っており、韓国企業のパフォーマンスにも少なからず影響を及ぼしていた。


(敬称略)

サントリー文化財団