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研究助成

成果報告

2006年度

棚田開拓史の研究
― 新潟県旧山古志村、奈良県明日香村、滋賀県大津市仰木を中心にして

龍谷大学国際文化学部教授
須藤 護

 本研究は2005年度から継続しているもので、2006年度は山古志村の棚田の仕組みと土地所有関係を明らかにすること、山古志の棚田が、全国的に共通するものであるか、特殊なものであるかを確認するために、奈良県明日香村と滋賀県仰木地区の棚田の比較研究を新たな課題とした。そしてこの研究は、中越地震から立ち直ろうとしている村に対して、ささやかながら力になれるのでは、という期待から出発している。
 山古志:今年度は次の3点の調査項目を設定した。(1)虫亀地区の地籍図および土地台帳検索の継続、(2)虫亀地区における集落構成と土地所有関係の調査、(3)棚田開発・管理に使用した民具の実測、である。虫亀の集落は五十嵐、佐藤、田中、長島、酒井等のマキ(血縁集団)によって構成されている。集落の成り立ちと密接に関係する本分家関係について、そして昨年度に棚田の仕組みについて現地調査をした金倉山東麓と、虫亀地区における本分家の棚田所有関係を具体化し、ある程度の棚田開拓の過程を探ることができた。しかしながら、虫亀地区には金蔵山東麓以外にも棚田が存在しており、中越地震によって大きくその姿を変えているために、全体像を掴むのはむずかしい状況である。
 明日香:奈良県明日香村では、灌漑の状況が比較的わかりやすい稲渕地区の棚田を対象にした。稲渕地区の棚田の面積は約21,5ヘクタール、棚田枚数は315枚である。この棚田を経営するために大井手、前田井手、坂田井手、下の井手、河原井手、ムカンダ井手の6本の灌漑用水を維持管理している。このうち90パーセントの棚田を灌漑している大井手を中心にして取水・排水の実態を記録し、それを基にして、(1)各棚田ブロックの取水と排水の仕組み、および水供給のシステムについて、(2)用水の共同管理、および井手から水を引く際のルールについて、(3)棚田開発の歴史、という問題をテーマにした。
 上記2地区に滋賀県仰木地区の棚田を加え、2年間の成果および今後の課題をまとめてみると以下のようになる。(1)棚田の取水・排水の方法は、各地区の自然条件と密接に関係する水資源のあり方に対応しており、水資源利用のルールおよび管理についても、各地区の対応が明らかに異なっている。(2)さらに水源利用のルール・管理は、村の成立過程および村の性格とも関連しているように思う。今回の研究では、水資源管理において本・分家関係でつよく結びついた山古志に対して、近畿圏に立地し地縁関係の結びつきが強い明日香、仰木との違いがはっきりと現れた。(3)この研究の主要なテーマである棚田開拓史については、資料収集の段階でとどまっている。棚田開発の歴史は、稲作が導入された弥生時代から始まり、戦後の食料難の時代に至るまでの歴史があると認識している。長い歴史を経ている棚田と近年に開発された棚田を分類し、各時代に棚田が果たしてきた役割について、今後時間をかけて資料を蓄積し、論考を深めていきたいと考えている。

(敬称略)

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