成果報告
2006年度
NPO・NGOの理論化に向けた国際的・学際的研究
- シドニー工科大学経営学研究科教授
- ジェニー・オニックス
本研究は、国際性が極めて高く、基本的には、ISTR(International Society for Third Sector Research。本部米国)を組織的なバックとして、 研究を進めた。
世界的なNPO研究は、東欧革命後、東欧でNPO、NGOの設立ラッシュが続いたことで、研究の対象として世界的な連携を行う機運が高まっていった。したがって、これまでのNPO、NGO研究が、「NPOは民主化のツール」という観点から、どちらかといえば、「善なるもの」という暗黙の前提に立っていたことは否めない。
本研究プロジェクトでは、そのことへの反省が明確に指摘された。とりわけ、9.11以降、単体としてのNPO、NGOだけではなく、「グローバル・シヴィル・ソサエティ」という形で、世界各国のNPO、NGOがネットワーク化し、本来、代表制のないところで「NGOの意見」、「NGOの反発」といった形で、多様な意見があたかも一つであるかのように喧伝された。そのことによって「民主化のツールであったはずのシヴィル・ソサエティが民主主義を却って歪めているのではないか」ということの指摘があった(米国的見方という批判も存在する)。NPOが 「グローバル・シヴィル・ソサエティ」となることで、紛争や暴力に結びつく事例が相次ぎ(例えば、デンマークの風刺画事件、ナイジェリアの美女コンテストボイコット事件等)、従来のNPO理論の大きな修正が迫られる可能性が指摘された。
言い換えれば、本研究プロジェクトの当初の関心はが、「NPO、NGOはなぜ存在するのかという理論化」であったが、それが「グローバル・シヴィル・ソサエティ」という、一層目に見えないものの存在の理論化へ向かっていった。なお、ここでの「グローバル・シヴィル・ソサエティ」とは、「国内の社会、政治、経済を超えて存在し、かつ家族、国家、市場の間に位置する、思想、価値、制度、組織、ネットワーク、個人の領域」と定義しうる。
さらに、このことの手がかりとして、言語選択の問題である言政学(複数の「言語」が使用可能な状況の中で、1つ又は複数の「言語」を取引言語として選択する前後に生じる、政治的、社会的な影響を考察する学際的科学)の問題がクローズアップされた。
なお、本研究プロジェクトは、今後、2007年10月にマニラ(フィリピン)、11月にサルバドル(ブラジル)、来年2008年7月にバルセロナ(スペイン)で研究会の予定を組んでいる。
(敬称略)