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研究助成

成果報告

2006年度

「政治と時間」・「政治体制の時間構成」に関する比較政治学的研究

学習院大学法学部教授
坂本 孝治郎

 上記のテーマについて、「政治と時間」研究会を8回にわたり学習院大学で開催した。
まず代表者として坂本が、「政治と時間」研究の課題と意義をめぐって共有すべき接近視角を、Juan J. Linzの1998年の論文- Democracy’s Time Constraints―に依拠して紹介した。われわれは、権力者が明確な権限と任期のルールに制約される民主主義体制と、概して権力者の肉体生命以外に時間制約のない権威主義体制との対照性を前提として、民主制の「時間制約」、「資源」としての時間、という視座が重要であることを確認した。
 かくして研究の主要課題は大きく二つに分けられた。第一に、個々の政治体制がどのような変動を経験して、議会・政党・内閣・選挙関連の日程を構築し制度化してきたのか、また祝祭日や歴史的記念日がどのように選択され配置されているか等の基本情報、すなわち政治体制の動態的な時間構成を整理し比較を試みること。第二に「資源としての時間」という観点から、政治システムにおいてミクロ的にどのような具体的な時間ルールがあるのか、政治アクターは時間制約をどのように操作利用しているのか、時間戦略の正当化・批判の言説はいかに展開されているか、埋め込まれた過去の時間枠はどのような影響を維持し痕跡を残しているか、などの諸側面を抽出し整除していくこと。
 具体的な知見として若林報告によれば、戦後台湾政治において「政治と時間」というテーマを考えるには、(1)中国国家の一分裂体として「反共復国」すべき体制の正統性の時間的逓減の問題、(2)民主化と移行時間とアジェンダ(民主化措置や制度改革)の優先順位の問題、(3)民主化後の民主体制における選挙のタイミングの問題、(4)台湾化に伴うナショナル・アイデンティティーの変容をめぐる歴史記憶をめぐる確執の問題、等を取り扱う必要がある。
 中居報告・「中国共産党トップにとっての時間」に関する知見は以下の通り。(1)中国共党トップが利用できる時間は、トップになるまでの時間、多数派工作に要する時間、70歳定年制などに拘束されている。従って、政権のレームダック化は起こりうる。(2)現実には、突発事件が政権のレームダック化を妨げる。1989年6月天安門事件、1991年8月モスクワ・クーデター、1999年5月在ユーゴ中国大使館誤爆事件、2001年4月米軍偵察機衝突事件、等において中国共産党トップは体制危機回避司令官となった。
 坂本は、首相の外国訪問日程のパターン、国会の召集日程と選挙日程との関係、英国議会の日程構成、英国・首相交替の日程構築、など「政治における日程設定(戦略)の重要性」を具体的事例に即して取り上げた。他のメンバーからは、明治以降の選挙と時間、最高裁判事採用にまつわる時間的考慮、幕末政治の時間制約、韓国の民主化と大統領任期、バルト諸国の政治と時間、拉致問題における時間要素、等の報告がなされた。これまでの研究会では、基本的には日本と東アジアの政治に焦点があてられたが、時間制約・ルールのもとでの時間操作、体制変動の過程で拮抗する時間枠の延命と再編、政治における時間システムの制度化などに関して、さまざまな知見が得られた。
 第一期研究会の成果の一部は、本年10月の日本政治学会・研究大会の分科会で坂本・若林・中居が披露する。07年度の第2期研究会では、さらに近代日本政治史・現代欧州政治の研究者の参集を求めて研究分野を拡充し、できたら08年・09年度に共著論文集を出版することを目指している。

(敬称略)

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