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研究助成

成果報告

2006年度

WILLIAM H. UKERS著、All about Teaをめぐる戦前世界茶業史と世界の茶文化
― 周辺資料集成と比較研究

静岡大学人文学部助教授
小二田 誠二

 05年度に引き続き、WILLIAM H. UKERS、All about Teaの日本語訳・註釈出版に向けた研究活動を行っている。2年目ということもあり、本書の概要や研究意義などについては省略する。

 05年度は、財団法人サントリー文化財団の研究助成、及び、学部長経費等の資金援助を得て、本書の内、日本の茶道・茶生産・流通に関する三章分の翻訳・注釈・解説を、知泉書館から『日本茶文化大全』として出版した。
 06年度は、7月から9月にかけて、島田市お茶の郷博物館において、企画展「外国人記者が見たニッポンのお茶」を主催。展示物の選定、展示作業などを担当するとともに、8月30日には付属する催しとして「江戸時代の茶会を再現〜All About Teaから」と題し、本書の参考文献である明治時代の茶道書の茶会を再現するデモンストレーションを行ったほか、9月12・13日には、シンポジウム「ニッポンのお茶を世界に向けて」を開催した。
 このシンポジウムは、アメリカから、「Tea a Magazine」編集長Pearl Dexterを招き、研究者・茶業者・県の茶行政関係者を交えて、ユーカースの時代から現代、そして、今後の茶業、特に日本茶の輸出について多角的に論じ合う、意義深い物となった。
 シンポジウムの講演録は、アメリカに拠点を持つ茶商のインタビュー「海外輸出の現状」を加えた形で『「ニッポンのお茶を世界に向けて」講演集』(非売品)として07年1月に刊行した。
また、『静岡新聞』でも紹介されほか、Pearl Dexterによって、「Tea a Magazine」誌上でも、茶産地等の探訪記事とともに特集が組まれている。
 また、メンバーの一人、鈴木実佳准教授は、翻訳書『茶の帝国:アッサムと日本から歴史の謎を解く』アラン・マクファーレン&アイリス・マクファーレン著 (東京:知泉書館、2007)を出版した。茶文化に関する最新刊である本書にも、All about Tea が引用されていること、この本が、今なお重要性を失っていないことの証左となるに違いない。

 さて、本研究会の主たる目的であるAll about Teaの日本語訳・註釈出版に向けては、継続的に研究会活動を進めているほか、自然科学系を含む未翻訳部分の責任担当者をあらためて確定していく交渉を行ってきた。こうした作業を進めるに連れて、予想を遙かに上回る大事業となることが明確になってきたため、大学全体の出版プロジェクトとして資金集めや実務を行う刊行会が必要、との認識に立ち、研究会結成当時の学部長であった松田純教授を顧問とし、学長を含め、全学規模での組織作りを開始するに至った。人文学部のみならず、大学としても、本研究会の意義を高く評価しての判断と言える。

 今後は、組織を充実させ、学内外から資金を調達し、全訳註出版に向けて作業を進めていくことになる。と同時に、07年秋に静岡で開催される世界お茶まつりでは、研究会としてブースを出し、ユーカースが紹介している20世紀初頭のアメリカにおける緑茶の飲み方を再現するなど、研究の成果を一般の人たちにも解りやすく提供する活動も続けていくことにしている。

(敬称略)

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