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研究助成

成果報告

2006年度

国際関係における「インテリジェンス」の文化史的考察

防衛庁防衛研究所戦史部教官
小谷 賢

 20世紀の国際関係においてインテリジェンスが果たした役割を巨視的に検討することにより、インテリジェンス問題への理解を深めるとともに、この分野において今後日本に求められる取組みを模索することを目標に掲げて発足した本研究プロジェクトであるが、インテリジェンス研究の泰斗マイケル・ハーマン教授による、冷戦期のインテリジェンス現象を総括する報告を皮切りに、計8回の研究会を開催し、13人による報告とそれに基づいた議論を重ねてきた。日本、イギリス、アメリカ、中国、ロシア、フランス、ドイツといった主要国のインテリジェンス・ヒストリーの体系的な理解を得るべく、各国のインテリジェンス問題及び政治・外交史の専門家による報告がなされた。そこで明らかにされたことの一つは、各国のインテリジェンスは、各国が国際関係の中で占める地位や役割、また各々の国家目標に沿う形で形成・発展してきたものであると同時に、各国独自の政治文化によって大きくその形態が規定されるということであった。このことは、翻って言えば、今後の日本のインテリジェンスの在り方を探求するうえでは、諸外国のインテリジェンスの理解のみならず、日本の国家像やインテリジェンス・ヒストリーの模索をも要するということであると言えよう。この一連の研究会の成果は、共著『インテリジェンスの20世紀』として千倉書房より近く刊行予定である。
 また、研究会と並行して、昨今活発な議論がなされている日本の情報機関の設立という政策課題に対する提言を行うべく、PHP総合研究所との共催により、「日本型インテリジェンスの模索」と題した政策シンポジウムを開催した。本シンポジウムには、町村信孝衆議院議員や大森義夫元内閣情報調査室長といった実務経験者に加え、研究者として戸部良一防衛大学校教授や赤木完爾慶応義塾大学教授にも出席を請い、無味乾燥な組織論に終始することなく、日本のインテリジェンス・ヒストリーや、日本のインテリジェンス文化を下支えするものとしてのインテリジェンス研究・教育の現状や今後の展望も踏まえた議論を行うなど、従来にはなかったアプローチを提唱することができた。こうした議論を研究者や実務家、マスコミ関係者に対して広く公開できたことは有意義なことであったと自負している。
 この一年の助成期間中に、共著の出版にむけた研究会の継続と、政策提言としてのシンポジウムの開催という二つの大きな成果を得たとは言え、20世紀のインテリジェンス・ヒストリーの総括という当グループの研究は未だ途上であるし、アカデミックな研究対象としてのインテリジェンス研究が日本では確立されているとは言い難い状況にあることも認めねばなるまい。インテリジェンス問題のより深い理解に向けて研究を継続することと、インテリジェンス研究の普及を企図し、基礎研究文献リストの作成等を通じて研究基盤を提供すること。この二つを今後の課題とし、研究成果の発表や情報の発信に努めていきたい。

(敬称略)

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