成果報告
2006年度
ヴォランティア活動の教育的・実践的意義と評価
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タイ国山村に於ける国際協力の事例
- 学習院大学経済学部教授
- 川嶋 辰彦
研究代表者は1997年以来、「学習院海外協力研修プログラム(Gakushuin Overseas NGO Volunteer Activity Programme。略称: GONGOVA)」を、タイ国北西部のメーホンソン県内山岳少数民族居住僻村で、毎年実施して来た。同プログラムの狙いは、わが国及びタイ国の学生達がタイの山村に滞在し、共同で草の根的国際協力NGOヴォランティア活動に取り組み、協力対象地域の生活基盤の改善、自然環境保全、及び貧困削減に寄与し、併せて自らの意識改革を推進することにある。
GONGOVAの活動に照らして立案された本研究は、メーホンソン県内の山岳少数民族居住僻村を対象に、2年間に亙り執り行われ、第2年度は下記のサブテーマを考察した。
(1)メーホンソン地域で活動する「主な地元NGO」と「GONGOVA」
(2)「森林の緑化・資源再生」と「山村への熱帯養蜂農業導入」
(3)メーホンソン地域に於ける「ヴォランティア公害」
(4)途上国に於いて取り組まれる、「草の根的国際協力NGOヴォランティア活動プログラム」の、在るべき姿。
第2年度の研究で得られた知見のうち、紙幅の都合で2点に絞り、上記サブテーマ(1)及び(2)の成果を、以下に要約する。
(1)メーホンソン市周辺地域で活動する地元NGOのうち、GONGOVAと似通った活動プログラムに携わる代表的な組織に、次の2団体がある。
1. International Cooperation for Thai Hill-tribe Development Foundation(ICTDF)、
2. Maehongson Development Foundation(MDF)。
他方、上記地域で特定規模を維持しながら実質的な活動を継続的に行なっているタイ国外NGOとしては、国連機構の傘下に入りメーホンソン県内の難民キャンプに関わる国外NGOを別にすると、GONGOVAは同地で活動する国外NGOの代表的立場を占める。GONGOVAは、過去10年余り、地元NGOの特にICTDFと協力関係を密に保ちながら、山岳少数民族居住僻村を対象に据えて、互いに補完的な活動を過去10年余り続けている。
(2)ミツバチによる授粉活動は、自然実生の発芽・生育を促進し、自然環境の緑化はもとより、果実・菌類・野生小動物など、森林資源の再生に資する。併せて、採蜜は、例えば地元山麓市場への出荷を通して、山村経済に新たな定収入の道を開く。この様な認識を踏まえて、熱帯雨林の緑化、森林資源の活性化、及び地域経済の振興を図る目的で、熱帯養蜂農業の導入が構想され、同構想に基づく小型のプロジェクトがGONGOVAにより、バンホエケオボン及びソプソイの両村に於いて、現在試験的に執り行なわれている。同プロジェクトの特性は、「植林活動が齎らす緑化効果・経済効果を、養蜂活動に拠り追い求める」点にあり、途上国内途上地域に立地する山村に対する開発事業の異色な選択肢として、このアプローチの実践的意義は着目に値する。なお、家畜化されたミツバチを、例え素朴であっても地域独特の創意工夫により飼育する伝統養蜂は、同山村地域では観察されない。しかし、高木の「ハチの木(タイ語では、トンプン)」(例えば、マイチャン〈タイ語による樹木名〉)の樹冠に巣を懸ける野生ミツバチが、この地域には棲息している。この巣の蜜液、幼虫、及び蜜蝋(みつろう)を目当てとする、「ハニー・ラーバ・ビーワックス」・ハンティングは、採取の際に高みからの墜落リスクを孕むものの、山岳少数民族の間に連綿と伝わる、確かなトンプン文化と言えよう。
(敬称略)