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研究助成

成果報告

2006年度

学生文化の比較社会学的研究

京都文教大学人間学部現代社会学科教授
柏岡 富英

1.個別研究の成果
 佐藤卓己「セロンに惑わず、ヨロンにもかかわらず 日本的世論の系譜学 第6回 全共闘的世論のゆくえ」(『考える人』2006年秋号)、佐藤八寿子『ミッション・スクール』(中公新書,2007)、井上義和「学生文化における第一世代問題」(稲垣恭子編『子ども・学校・社会』世界思想社,2006所収)、末冨芳「「明るいキャンパスライフ」の格差問題」(未公刊)。
 共同研究の成果は第Ⅱ期(2007年度)にまとめる予定である。

2.共同討議
 各メンバーがこれまで個別に進めてきた研究から、とくに1970年代/昭和50年代の学生文化にアプローチする視角と方法に重点を置いて検討を行った。提示されたキーワードを挙げれば、アメリカニズム(柏岡富英)、全共闘的世論(佐藤卓己)、フォークソングとミッションスクール(佐藤八寿子)、学歴移動と第一世代問題(井上義和)、「明るいキャンパスライフ」と格差問題(末冨芳)、などである。以下に、共同討議のなかで出された論点を整理して、今後の課題をまとめる。
(1)「明るいキャンパスライフ」の誕生と変容――格差の拡大と階層再生産
 「明るいキャンパスライフ」というキーワードを中心に先行研究や客観的指標を整理していく方向性が共有された。当初設定していた研究枠組(「流行とメディア」―「階層と経済」)でいえば、1970年代/昭和50年代には、(1)「流行とメディア」レベルの「明るいキャンパスライフ」世論が流通してく過程と、(2)「階層と経済」レベルの格差が大学進学層内部で拡大してく過程、さらに(3)「明るいキャンパスライフ」の実現度において地域間および大学間での差異が顕在化していく過程、が同時進行していた。今後、これらの関連について客観的な指標を使って分析しながら「明るいキャンパスライフ」の誕生と変容を説明する変数を絞りこんでいく。
(2)学生文化の終焉――若者文化とのヘゲモニー闘争
 1960年代以前および1990年代以降を含むより中長期的な時間軸を視野に入れて「そもそも若者文化と区別される学生文化とは?」という問題を設定する。学生文化は、かつて若者文化とは一線を画すものだったが、いまや若者文化との識別が困難になっている。その文化的変動の過渡期として1970年代/昭和50年代の「明るいキャンパスライフ」を位置づけなおす必要がある。すなわち、(1)「流行とメディア」レベルでは高度消費社会化(アメリカニズム)の進行とともに学生文化の中に若者文化が浸透していく過程、(2)「階層と経済」レベルでは教養主義の衰退以後に学生集団が規範文化を喪失していく過程、が同時進行していた。これは「学生文化の終焉」(若者文化とのヘゲモニー闘争での敗北)をもたらした。今後、これらの関連について客観的な指標を使って分析しながら「学生文化の再興」の(不)可能性の条件についても考察していく。

(敬称略)

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