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研究助成

成果報告

2006年度

ヨーロッパにおけるアニメーション文化の独自の発展形態についての調査と研究

首都大学東京都市教養学部准教授
赤塚 若樹

2006年度助成対象
ヨーロッパにおけるアニメーション文化の独自の発展形態についての調査と研究
研究代表:赤塚 若樹

1.研究概要
 ここ何年かのあいだにすっかり文化・芸術の一領域として認知されるようになったアニメーション。とはいえ現状では特定の地域文化の産物として捉える視点が大きく欠落しているため、参照すべき資料がほとんど整備されておらず、作品や作家について不確かな情報がまことしやかに流れてしまうような状況がある。本研究プロジェクトの課題は、アニメーション産出国の多くが集中するヨーロッパを中心に据えて、こうした欠落や遅れを補い、取りもどすことにあり、そして、そうすることによって現在のアニメーション研究に、これまでになかった展望を切り開くことを目的とした。そこには同時に、狭い範囲のアニメーション研究にとどまらず、芸術や産業の「現場」、あるいはより広く一般の人びとの要求にも応えていきたいという意識があったことも記しておきたい。
  「共同研究者」に名を連ねていたのは木村英明(スロヴァキア・東欧文化)、鈴木正美(ロシア文化/ロシア美術)、井上徹(ユーラシア文化/映画史)、古永真一(フランス文化/現代思想)、渡邊昭子(ハンガリー文化/西洋史)、駒形千夏(映像文化/フランス語)、中村泰之(メディア・アーティスト)の7名だが、このプロジェクトは同時にアニメーションや映像の研究者、さらには若手のメディア・アーティストや国際的な活動をくりひろげるアニメーション作家が集う「場」にもなりえていたと考えている。
 なお、本研究プロジェクトは2005年度からの継続であり、2006年度はとくにこの「場」を介しての「人のつながり」を重視しながら研究を進めた。

2.研究の進捗状況

 具体的な活動内容はといえば、グループ全体での研究会合を以下のように(2005年度の2回を引き継いで)4回開催した──

第3回研究報告・発表会 (2006年9月30日 「世界史研究所」会議室 東京・渋谷)
《報告(<第11回広島国際アニメーションフェスティバル>を訪れて)》 [1]土居伸彰(アニメーション研究家)「第11回大会概要報告:コンペティション入選作品の傾向とそこに無かったもの」,[2]大嶺沙和(映画研究家)「広島の位置」.
《講演》 [3]大山慶(アニメーション作家)「私にとってのアニメーションとは」.
第4回研究報告・発表会 (2006年10月28日 「世界史研究所」会議室 東京・渋谷)
《研究発表》 [1]権藤俊司(アニメーション研究家)「『やぶにらみの暴君』と『王と鳥』」.《講演》 [2]倉重哲二(アニメーション作家)「源泉としてのヨーロッパ、戦略としてのアンチ・ヨーロッパ──自作を振り返って」.
第5回研究報告・発表会 (2006年12月2日 「世界史研究所」会議室 東京・渋谷)
《公開インタヴュー&フリートーク》 ゲスト=小川功 (フリー編集者、元ペヨトル工房),真部学 ([株]アットアームズ).聞き手:赤塚若樹(本プロジェクト代表).[特別上映]ブジェチスラフ・ポヤル『HIROSHI──草原を駆ける涙』(2005).
第6回研究会合(2007年3月17日 「世界史研究所」会議室 東京・渋谷)
《講演》[1]牧野 貴(映像作家)「ブラザーズ・クエイより受け継いだ光と音──その発展と応用」,[2]辻 直之(アニメーション作家)「ヨーロッパへの憧れについて、から始まる雑音」.
 研究者による発表や報告のほか、アニメーション作家や映像作家に作品受容のされ方、映画祭の状況などヨーロッパのアニメーション事情について実体験にもとづく話をしていただき、さらにまた関連書籍の編集者や配給会社の担当者に文化産業としてのアニメーションのあり方についての話もうかがった。これらの研究会合はいずれも一般公開され、アニメーションに関心をもつ一般の人びとをふくめた数多くの聴講者を集めた。このような活動状況とその成果の一部は本プロジェクトのHPをとおして公開されている。
 グループとしてのおもな活動は以上のとおりだが、各メンバーがそれぞれ個別の活動のなかでも本研究に密接にかかわる研究成果を発表している。たとえば、論文に鈴木正美「ペテルブルグの芸術??美術都市と反コンセプチュアリズム」(『創像都市ペテルブルグ――歴史・科学・文化』)、井上徹「「甦るロシア映画 ペレストロイカから今日まで」(「NFCニューズレター」)、井上徹「ドヴジェンコ無声映画における身体――『大地』を中心に」(『テクストと身体』)、古永真一「バンドデシネ・アヴァンギャルド――マルタン=ヴォーン・ジェイムズの『檻』について」(『ETUDES FRANCAISES』)、講演に鈴木正美「ロシアの大衆文化とヴィジュアル・イメージ」(新潟県立万代島美術館)、鈴木正美「『チェコ・アニメ』上映会&講演会」(新潟市新津美術館)、さらにシンポジウム参加に井上徹「映画における『大衆的なもの』とは何か」(日本ロシア文学会)、トークイベント参加に赤塚若樹「JUNKU 連続トークセッション――海外アニメーションの巨匠たち」(ジュンク堂書店)などがある。なお、研究代表者は、このほかに東京・渋谷のミニシアター<アップリンク・ファクトリー>で定期的にアニメーションおよび実験的映像にかんする講演を行なっており、またチェコのアニメーションにかんする書籍の編集・翻訳作業も進めている。

3.今後の展開と課題
 2005年度以来2年間つづけてきた本グルーでの研究活動の総まとめとして最後に研究成果報告論集の作成をした。この論集には文章の形式と内容に応じて「論文」、「資料・研究ノート」、「講演」、「報告」、そして「公開討論」という5つのカテゴリーに分類される19のテクストが収められている。いずれもが力のこもった文章ではあるが、それによって到達できなかったことがらがあまりにも多いこともまたあきらかとなった。とはいえ、ここではそういったマイナス点よりもむしろ、研究成果報告論集をもって地域文化としてのアニメーションの研究がようやく端緒についたという点を積極的にとらえ、そのうえで、未踏査の領域についてはこの研究プロジェクトにかかわった者たちの今後の課題ということにしたい。最後に、このようなプロジェクトを2年間にわたる研究助成というかたちで実現してくれたサントリー文化財団に最大限の感謝を捧げたいと思う。(2007年8月27日記)

(敬称略)

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