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研究助成

成果報告

2005年度

大山崎を起点に発信しつづけるモダンデザイン・産業・ライフスタイルの研究

京都工芸繊維大学工芸学部助教授
矢ヶ崎 善太郎

 本研究は京都府乙訓郡大山崎という地がもつ固有の地域性に注目し、そこで発生した新しいデザインの試み、産業の新機軸、近代的ライフスタイルの提案などについて検証し、それらの今日的意義と今後の展開の可能性について探求しようとするものである。
 大山崎の地で実験住宅を建設し、環境工学の研究成果からより良い住環境の提案を試みる一方で、ヨーロッパの最新の造形運動にも造詣が深かった建築家・藤井厚二の建築作品のうち、実験住宅の遺構である聴竹居(1928年)について、建築、家具、室内環境に関する実測調査を行い、藤井の提案を実証的に確認するとともに、その実効性について検証した。また藤井の設計になる野村家茶室(大山崎町 1930年)、八木邸(寝屋川市香里園 1930年)、旧小川邸(京都市左京区 1934)についても同様の調査と考察を行った。実測図ほか実測結果はデジタルデータ化した。
 聴竹居ほか藤井厚二の建築を多く手がけた大工・酒徳氏の所蔵になる図面および資料を整理し、藤井厚二の事績の解明を試みた。図面および資料はデジタルデータ化した。
 京都で戦前よりインテリア家具の製造販売を行っていた宮崎家具所蔵の資料(カタログ等)のうち1920年年前後の資料を入手し、藤井厚二を中心としたインテリアに関する提案の動向を考察した。入手した資料はデジタルデータ化した。
 大山崎の地にいち早く目をつけ、自身の別荘を開くと同時に、地元産業の振興に貢献した加賀正太郎に関する資料を収集し、その史的意義について考察した。また、大山崎、および隣接する山崎の地に工場を立地したアサヒビールとサントリーついて、立地条件を基にした企業イメージ戦略について考察を試みた。ただし、資料の収集および考察については、なお継続中である。
 以上の一連の作業によって得られた成果は多岐にわたり、また多様なものであるが、いくつかその要点をまとめると、先ず、藤井厚二の建築に見られる室内環境と構造・設備への積極的な配慮は今日の環境工学の高いレベルからすると、当然物足りないものであるが、わが国の建築学のあり方を抜本的に変える一助になったことは十分に評価できる。ユカ座とイス座を組み合わせるなど、藤井の試みた独特な工夫は、日本の住宅計画学を変えるほどの普遍性を持ちえたものではなかったが、むしろ従来の和風デザインとは一線を画した日本的デザインの探求は、その後のインテリアの展開に大いに刺激を与えたものであった。
 また、実測等によって藤井厚二の事績が一部ではあるが明らかにされたことの意義は大きい。関連資料とともにそれらデジタル化されたデータは、他の研究者への提供を拒むものではなく、今後の研究の発展に資すること大である。

(敬称略)

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