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研究助成

成果報告

2005年度

英国・日本の鉄流通過程と文化伝播に関する比較文化調査

NPOまちづくりビジネス支援ネットワーク専務理事
藤原 洋

 日本において極めて良質な鋼を生産してきた「たたら製鉄」産業で栄えた島根県雲南市吉田町。そして、英国において産業革命の先駆けとなったアイアンブリッジ渓谷。この両者は、ともに山間地にありながら外部との物資や技術の移出入を行って独特の町を築き上げた。
 その後、製鉄産業は衰退したが、アイアンブリッジ渓谷はその産業遺産を保存・公開し、環境教育の場としての整備を進め、世界遺産にも指定されており、国内外から多くの来訪者が訪れる都市となっている。また、島根県雲南市吉田町については、「鉄の歴史村」を宣言し「菅谷高殿」を中心とした産業遺産の保存・公開をはじめとしたまちづくりが行われてきた。
 アイアンブリッジにおいては、主な流通経路は運河と軌道であった。そしてこれらの発展と同時に倉庫、橋梁、ホテル、マーケットスクエア、様々な階層の人々の住宅、製粉所等が建設されていった。また、学校や教会、文芸・科学研究所、図書館といった文化施設も整えられ、町が形成されていった。
 吉田町においても、生産拠点から山を隔てて鉄山経営者の住宅を中心とした町が形成され、番頭屋敷の並ぶ本町通り、神域として数々の寺、サービス施設群などへと町が発展していった。また、鉄の移出に伴って三国港や新潟港、芦屋港において、素材としての鉄がそれぞれに製品化され、各地から持ち帰られた工芸品が伝えられていることが明らかになった。
 今回の調査により、現在に残される史跡から都市形成の発展過程をたどり、そこから文化の流入による影響を見てきた。そしてさらに重要なことは、これらの都市形成の過程や文化が現代にどのように活かされ、その歴史を引き継いでいるかということである。島根県雲南市吉田町においては、産業遺産の保存・公開と博物館整備、町並み整備等が行われてきた。一方のアイアンブリッジにおいては、史跡の保存や復元、再利用がより先行した形で行われ、それを推進してきた母体組織も充実している。そして、こうして整備された各拠点が有機的に結ばれ、全体性を重視した活用が成されていた。これらは、もう一つの調査地であるコーンウォールにおいても同様であった。日本においてもこのような取り組みに学ぶことは多い。
 今後、鉄流通やそこで行われた文化交流をより詳細に調査・検証を進めていく必要がある。そして、今回の調査で明らかになった都市形成の過程、鉄流通や流入した文化を地域で共有し、活用していくことにより過去の文化的蓄積が未来性を持った地域文化へと育てられていくものと確信する。

(敬称略)

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