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研究助成

成果報告

2005年度

18世紀のロンドンと江戸
― 出版業の比較

東京大学大学院人文社会学系研究科教授
近藤 和彦

研究の進捗と成果
 イギリス・日本それぞれにおける歴史研究の展開をふまえ、18世紀にそれぞれ成熟するロンドンと江戸の都市文化のうちでも、とりわけ成果の期待できる分野に焦点をあてて、共同研究を遂行した。これを可能とする前提には、申請者の留学以来のイギリス史家との交流、吉田をはじめとする日本都市史研究者との交友があった。
 申請時にかかげた目的は、a. レイヴン教授による研究プロジェクト「18世紀出版業と本の流通」のデジタルデータ化の方法と成果を日本に紹介し、b. 近世日本の豊かな出版文化と「熈代勝覧」をはじめとする図像史料を英国側に紹介すること、そうして c. 相互の学界に貢献するだけでなく、広く市民的な関心にも応えることであった。しかし想定外であったが、レイヴンの妻が高齢出産をむかえ(2006年1月に出産)、レイヴンは産児・育児休暇をとった。狭義のロンドン出版史はレイヴンが一貫して研究しており、他の者はその成果に強い関心をもつが代行することはできない。また助成金支給額も考慮して招聘研究者は一人とし、研究テーマのメインの部分を目的として、下記のとおりサントリー文化財団研究助成コロキアムを開催した。

 2006年3月16日、東京大学における「江戸とロンドン」コロキアム
  近藤 和彦:問題提起と司会
  ポール・スラック:The rise of a metropolis and perceptions of London
  浅野 秀剛(千葉市美術館):The representation of Edo
  伊藤 毅(東京大学工学部):Edo: the city and architecture

 このコロキアムでは3本の研究報告を柱として、江戸とロンドンの18世紀を中心に、都市の社会・空間・表象をめぐり、そのパラレリズムと相違点を討論した。出版業に特化した研究集会ではないが、その前提となる18世紀の両都市の文化と社会をめぐる具体的で刺激的な機会となった。これをふまえ、当日の参加者および在英のレイヴンおよびティム・ヒチコックといった都市史専門家を加えて論文集を編み出版する計画をたてた。レイヴンからはすでに London and the development of the English book trade, c.1690-1820 という寄稿をえている。吉田も含めて編集は現在進行中である(2007年に山川出版社から刊行予定)。
 またスラック教授には、3月20日、イギリス史研究会と共催のセミナーで、17〜18世紀イギリスの社会経済について報告してもらい、討論と相互理解を深めた。オクスフォード大学副学長、歴史学専門誌Past & Present の編集者でもあるスラック教授との学術交流は、日英両国の歴史学界にとって建設的な意味をもつ。
 この後も、上記の「江戸とロンドン」出版のための編集企画、そして申請者の論文作成のために、会議費・謝金・資料費・消耗品などを支弁した。貴財団の研究助成によって国際的・学際的な研究が開始した。近い将来に具体的な結実をご報告したい。

(敬称略)

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