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研究助成

成果報告

2005年度

東アジアにおける知的財産に関する渉外私法の調整の可能性に関する研究

早稲田大学比較法研究所所長
木棚 照一

1. 私たちの研究グループは、WTO成立後の市場のグローバル化に対応した知的財産の国際的保護のあり方を研究し、とりわけ、TRIPs協定によってある程度各国知的財産法の調整と調和が進んできた現段階で知的財産の実効的行使を高めるために重要となってくる知的財産権に関する国際私法の統一・調整の可能性を、東アジアの視点から、日本ばかりではなく、韓国、中国の知的財産法、国際私法の学者とともに研究しようとしている。

2. この点が世界的に論じられる契機となったのは、1999年10月30日のハーグ国際私法会議特別委員会の「民亊及び商事に関する国際裁判管轄権及び外国判決に関する準備草案」の審議であった。この草案との関係で、知的財産権の成立及び効力や侵害に関する国際裁判管轄権や外国判決の承認だけではなく、準拠法規則を含む全体的検討の必要性が指摘された。その後、ハーグ国際私法会議における議論が管轄合意に絞られ、しかも、著作権及び著作隣接権を除く知的財産権について条約の対象外とされた。しかし、その議論は、WIPOシンポジュウムにおける議論を経て、一方では、アメリカ法律協会(以下、ALIと略す)が中心になって提唱されている原則に引き継がれ、他方では、ドイツのマックス・プランク研究所の提案となっていった。
ALIは、ニューヨーク大学のRochelle C. Dreyfuss教授、コロンビア大学のJane C. Ginsburg教授、スイスのロザンヌ大学のFramcois Dessemontet教授が共同報告者となって、2003年に第一次予備草案を発表した後、2006年1月3日に第4次予備草案を発表している。出発点としては、抵触法第二リステイトメントと同様に規則を明らかにした後、考慮すべき要因を掲げ規則を緩和する例外を定め、裁判管轄権を広く認めるとともに、準拠法を単一化する方向を志向するように見える。
他方、MPI提案は、1975年にドイツ司法大臣の委託に応じてEC国際司法統一のために作成されたウルマー(Eugen Ulmer)草案を基礎として、属地主義とそれを示す保護国法の原則を出来る限り厳格に守りながら、インターネットによる不特定かつ多数の侵害をユビキタス侵害として最も密接な関係を有する国の法法によらしめる。何処が最も密接に関係する国かは、侵害されたとされる者の常居所や営業中心地など3つの要素を考慮して決定する。

3. このように出発点においてまったく異なる手法をとるように見える両案の内容は、少なくとも外見的には類似してきているように見える。ALI第4次予備草案によると、登録から生じない知的財産権につきMPI提案と同様「保護国法」の概念を採用し、規則の例外となる部分につきMPI提案と同様にユビキタス侵害の概念を採用する。しかし、それらの概念や規定の手法にはなおかなり大きな差異が見られるように思われる。ALI原則とMPI提案に関する学問的討議は、異なる方向から出発し、何処まで、どのようにして共通の規則を導き出せるかについての一つの実験場になっているように思われる。私たちの研究グループは、そのようの状況の中でヨーロッパとアメリカの双方から法を継受し、それぞれの国の事情に合うように法原則を発展させてきた東アジアの諸国のして点から一定の提案を発するのは、知的財産権に関する国際私法原則の国際的な統一と調和の観点からも有意義であると考える。

4. 2006年9月2,3日韓国建国大学校法科大学で行われたシンポジュウムでは、日本側から国際裁判管轄権、準拠法、外国判決につき具体的な案を提示し、討論に付した。年末までには、韓国側の案が具体的に示される予定になっている。ALI原則もMPI提案も今後プロジェクトによりさらに検討され、変化しyテイクだけに難しい点も残されるが、これらの案を中心に、今後中国の学者も含めて東アジアから知的財産権に関する国際私法の統一モデルを発信したいと考えている。

(敬称略)

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