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研究助成

成果報告

2005年度

東アジアにおける「日本発アニメ・デジタルコンテンツ」の受容とその展開に関する比較文明論的研究

関西学院大学大学院社会学研究科教授
奥野 卓司

 本研究は、日本発のデジタルコンテンツ、その中でも今年度はとくにアニメ(両者を以下、デジタルコンテンツとする)の東アジアでの需要とその展開について質的調査を行い、実証的かつ比較文明論的に分析した。
 この観点から、今年度までに、上海、北京、ソウル、釜山、台北、台中、ホーチミン、香港などの東アジアの諸都市においてフィールド調査を行ってきた。今年度の分析研究会では、そのうち台湾、中国、韓国での調査結果を比較して、以下のような特徴・問題点を明らかにした。

・ 台湾・・・・哈日族の拡大により、著作権が一様でなく何種類も生まれている。台湾の哈日族による日本へのオタク観光が増加している。
・ 中国・・・・日本発デジタルコンテンツの内陸部への浸透と管理強化の二面性があり、コミケは地方都市にまで拡大中である。これにともなうインターネットを通じてのコピーDVD、ネットゲームの一般化が進んでいる。その一方での国策としてのアニメ制作の推進で、日本文化抑制政策の矛盾が限界に近づいている。
・ 韓国・・・・「日本」のデジタルコンテンツは隠れて存在している。オタクであることは恥ずかしいとする意識が社会には強い。このためオタクはネットの中に隠れ、街に出ない。だが、そのなかでのベンチャー志向強く、国家もこれを支援している。

 以上の諸点をより検討するため、日本の状況と比較する目的で、韓国ソウル市の高麗大学の「ワンピース同好会」のメンバー3名に来日してもらい、東京の秋葉原、大阪の日本橋において、日本側の共同研究者たちとともに、各拠点の探訪、調査を行った。これによって、日本では(とくに韓国と比較して)、この領域が、アニメからマンガ、フィギュア、ゲーム、音楽(アニソンを中心にした、Jポップ)、声優劇、コスプレ、メイド喫茶などに多角化している。そこに集まるものも、いわゆる「オタク」からマニア、ファン、追随者など、男女を問わず、多様な層、広い年齢層に拡張している。また、彼らの志向も、いわゆる「オタク」志向だけではなく、オタク文化を越えるポピュラーカルチャーの多様な方向に向かっていることがわかった。そうである以上、日本におけるデジタルコンテンツの生産、消費を担う層をもはや「オタク」と呼ぶのは正しくなく、「多元的マニアックス」とすべきであろう。
 一方、韓国にはこの層的広がりが無く、このため国策としてデジタルコンテンツを振興しても、それがどの程度有効なのかは疑わしい。しかしながら、韓国の若者(とくに来日した「ワンピース同好会」)には、日本の若者にみられないほど、この領域におけるベンチャーでの成功志向が強く、またインターネットを介しての紐帯が強力であるため、いつまでも日本発のデジタルコンテンツの一方的信奉者であり続けるとは思えない。
 今年度は、以上の研究成果として、研究代表者による『日本発イット革命-アジアに広がるジャパン・クール』(奥野卓司著、岩波書店、2005)の出版、共同研究者による学術論文の発表を行った。
 また、これら今日のデジタルコンテンツへと続く日本の文化的伝統は深いと考えられるので、ジャパンクールの元祖である歌舞伎、文楽、落語などの伝統的な日本の江戸・上方文化のデジタルコンテンツ化と、その海外への発信についても、調査・研究をし、今日のデジタルコンテンツとの比較分析を深めていく。

(敬称略)

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