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研究助成

成果報告

2005年度

全国家族調査データを用いた1998-2003年の家族動態分析

首都大学東京都市教養学部助教授
稲葉 昭英

 サントリー文化財団によって助成をうけた標記のプロジェクトは、日本家族社会学会が1999年に実施した第1回全国家族調査(NFRJ98)、2003年に実施した第2回全国家族調査データ(NFRJ03)を用いた共同研究のプロジェクトである。その成果として2006年に西野理子・稲葉昭英・嶋崎尚子編『夫婦・世帯・ライフコース:第2回家族についての全国調査(NFRJ)2-1』、澤口恵一・神原文子編『親子、きょうだい、サポートネットワーク:第2回家族についての全国調査(NFRJ)2-2』の2冊の報告書を発表した。西野理子・稲葉昭英・嶋崎尚子編『夫婦・世帯・ライフコース:第2回家族についての全国調査(NFRJ)2-1』には13編の論文を掲載している。執筆者とタイトルは以下のとおり。

 
1 夫の家事・育児参加は妻の夫婦関係満足感を高めるか?―雇用不安定時代における家事・育児分担のゆくえ― 大和礼子 17-33
2 男性の家事参加の変化―NFRJ98,03を用いた分析― 松田茂樹 35-48
3 家計負担率からみた夫の家庭内役割分担の実態―育児期に着目して― 松本訓枝 49-60
4 共働き家族の男性における役割葛藤とディストレス―稼ぎ手役割意識と配偶者からの情緒的サポートによる緩衝効果― 61-74
5 ライフステージ、ジェンダー、ワーク・ファミリー・コンフリクト―ワーク・ファミリー・コンフリクトの規定要因と生活の質との関連― 西村純子 75-88
6 学歴下方婚のすすめ―類婚選択と実現された生活 小林淑恵 89-102
7 結婚・出産タイミングはその後の結婚生活に影響を与えるか? 筒井淳也 103-115
8 Educational Status and Income: Correlations with Subjective Evaluation of Marital Quality 土倉礼子 117-123
9 男性の性別役割分業意識―家族関係・家族経験による形成過程― 嶋崎尚子 125-137
10 家族意識の変動をめぐって―性別分業意識と親子同居意識にみる変化の分析― 西野理子 139-152
11 一時的別居世帯員の構造 稲葉昭英 153-165
12 ライフ・コースは多様化しているか?:最適マッチング法によるライフ・コース分析 福田亘孝 167-181
13 NFRJ03・NFRJ98からみた丙午生まれのその後 赤林英夫 183-195
 

 大和礼子「夫の家事・育児参加は妻の夫婦関係満足感を高めるか?―雇用不安定時代における家事・育児分担のゆくえ」は、妻の夫婦間満足感を用いて、夫の家事・育児分担を妻がどのように考えているのかを明らかにしている。育児期/非育児期というライフステージと妻の性役割意識、妻の収入貢献度に配慮しながら回帰分析を行ない、育児参加については妻から夫への期待が大きいが、家事参加についてはそうとはいえないという結論を提示している。また、子どもが成長した後の非育児期には、NFRJ98では適合的であった衡平理論がNFRJ03では当てはまらないと指摘している。すなわち、男性の雇用が不安定化し妻の非正規労働者としての雇用が進むという社会情勢を背景に、妻の収入貢献度は高いが夫の家事参加は期待できない現状ゆえに、夫婦関係に満足であるのは性別役割に賛成の妻になるという。
 松田茂樹「男性の家事参加の変化 -NFRJ98、03を用いた分析-」は、同じく夫の家事参加を、男性の側からとらえている。NFRJ98からNFRJ03への変化を分析したところ、夫の家事参加が高まったとはいえ、増加はわずかであったという。また、夫の家事参加の規定要因のtobit分析の結果、家事参加を規定している要因の構造も大きくは変化していなかった。夫婦の労働時間は延び妻の収入割合は減っているが、夫婦の家事分担は短期間では変化しにくい構造であり、労働時間の延長によりむしろ夫婦はより分業する方向に向かいつつある可能性を指摘している。
 松本訓枝「家計負担率からみた夫の家庭内役割分担の実態―育児期に着目して」は、夫の家計負担率によって彼らの家庭内における役割が異なるという仮説をたて、その実態を明らかにしようとしている。夫の家計負担率を7割で識別したところ、夫の家計負担率の高低と夫の家事・育児遂行と夫の家庭内でのジェンダー意識、妻の家事・育児評価、夫の結婚満足度とは関連していた。すなわち、共働きで夫の家計負担率が低い場合、家事・育児を多く遂行する。また、妻への家事・育児評価が低く、結婚満足度も低い。仮説どおり、夫の家計への貢献度によって、男性の家庭内役割に対する意識・態度が異なることを確かめている。
「共働き家族の男性における役割葛藤とディストレス-稼ぎ手役割意識と配偶者からの情緒的サポートによる緩衝効果-」は、共働き家庭の男性を対象に、彼らが経験する役割葛藤の影響をストレス論的アプローチから検討している。分析の結果、共働き家族の男性が経験する役割葛藤はディストレスに否定的な影響を及ぼすことを指摘し、今後は男性の多重役割状況にも目を向ける必要があると論じている。また、その役割葛藤の影響を、男性の稼ぎ手役割ではなく配偶者からの情緒的サポートが部分的に緩衝していた。共働きの男性が仕事と家庭を両立する過程で、配偶者からの情緒的なサポートが有用な資源であるが、しかもそれだけでは不十分だという結論に至っている。
 西村純子「ライフステージ、ジェンダー、ワーク・ファミリー・コンフリクト -ワーク・ファミリー・コンフリクトの規定要因と生活の質との関連-」は、ワーク・ファミリー・コンフリクト(WFC/FWC)の発生頻度、規定要因、および生活満足度との関連を、特にライフステージと性による差異に着目して分析している。ワーク・ファミリー・コンフリクト自体、近年注目を集めている概念である。NFRJ03には、仕事から家庭へのコンフリクトであるWFCと、家庭から仕事へのコンフリクトのFWCを測定できる項目が含まれており、西村はこれを用いて広範に分析を行っている。具体的には、子どもの成長段階で設定したステージ別でWFCとFWCが男女でいかに異なっているかを指摘し、またそれが実際に担っているであろうケア役割と、ケア役割への期待によって変動していることを明らかにしている。さらに、WFC/FWCと生活満足度の関連から生活の質を問うている。
 小林淑恵「学歴下方婚のすすめ-類婚選択と実現された生活」は、夫婦の学歴から“同類婚”“伝統婚(夫の学歴が上)”“非伝統婚(妻の学歴が上)”の3つにわけている。女性の高学歴化に伴い“非伝統婚”が多くなっていることを確認した上で、類婚タイプによって実現された生活を分析している。その結果、伝統婚では妻が無職である傾向が強く、その分、少ない所得でやり繰りしているが、夫婦双方が精神的には円満な生活を営んでいるようすがうかがえた。他方、非伝統婚では、就労意欲が高く実際に家計への貢献度が高い妻で、健康や精神面でマイナスの影響がうかがえた。
 筒井淳也「結婚・出産タイミングはその後の結婚生活に影響を与えるか?」は、結婚タイミングならびに出産タイミングの動向を教育年数や世帯収入、子ども数との関連で把握している。分析結果からは、一般的な常識的理解とは異なる動向が指摘されている。一つには、学歴が低い社会階層で若年結婚が多いように思われているが、実際の教育年数と結婚年齢は単調な関係にはなく、同じ学歴の中でも多様化がすすんでいること。第二に、「できちゃった婚」は若年結婚だけの現象ではないことである。ついで、その結婚ならびに出産のタイミングがその後の結婚生活の質に与えている影響を検討し、若い世代では遅くに結婚して新婚期間が長い方が結婚の質が高いという結論を得ている。関連はわずかではあるが、理論的な関心を喚起する結果となっている。
 土倉礼子「Educational Status and Income: Correlations with Subjective Evaluation of Marital Quality」も、学歴、年収、世帯収入という社会経済的地位と結婚の質との関連を問うている。土倉の分析によれば、夫が評価する結婚の質は、妻の場合より、学歴や年収に影響されるが、妻の評価は世帯収入によって左右される。いずれの年齢コーホートにおいてもこの傾向は変わらないという。この結果からは、性別分業の存在がうかがえる。ただし、妻の社会経済力が強いほど、ジェンダーによる差は小さくなる傾向にある。
 嶋崎尚子「男性の性別役割分業意識-家族関係・家族経験による形成過程-」は、48歳以下と若年の男性有配偶者とその比較対象となる女性有配偶者の性別役割分業意識を、育児役割や稼得役割も含めて多元的にとらえている。そして、その規定要因を分析していく中で、実態的な行動や経験が意識を規定しており、男性の性別役割分業意識が家庭の状況に適合的であることを明らかにしている。とりわけ、男性は家事への関与、女性は家計への関与という、広義の性別役割分業体制では想定されていない反対領域への参与度が「育児役割責任」を規定していると指摘している。
 西野理子「家族意識の変動をめぐって―性別分業意識と親子同居意識にみる変化の分析―」は、性別分業意識の変動をNFRJ03とNFRJ98との比較により検討している。NFRJ03では女性の中高年層、男性の全年齢層において分業規範の弛緩化がみられるが、女性のそれは新規コーホートによって説明でき、男性の変動のみ時代の影響が示唆されると指摘している。ただし、意識と行動の一致度に着目して意識の質的変化にまで目を向けると、女性においても変化を認めることができると述べている。あわせて親子同居に関する意識についても同様の分析を行なっている。
 稲葉昭英「一時的別居世帯員の構造」は、 “一時的別居世帯員”を分析している。調査の結果、全体の1割強が“別居世帯員”がいると答え、その多くは20歳代前半で進学・就職のために別居を開始した者たちであった。対象者らは、子の学校卒業・就職、経済的自立、結婚といったライフコース上の移行によって、一時的別居から別世帯へと子の位置づけに関する認識を変えているようだが、その分岐を決定付けているのは結婚であった。つまり、子の結婚は一時的な別居ではなく恒久的なものとみなされていた。さらに、別居世帯員を考慮した場合の世帯構成パターンと世帯の経済指標を検討し、別居世帯員を測定する積極的な意味を確認している。
 福田亘孝「ライフ・コースは多様化しているか?:最適マッチング法によるライフ・コース分析」は、タイトルにあるとおり、最適マッチング法を用いて、女性のライフコースが多様化しているのか、逆に標準化しているのかを検証している。最適マッチング法は、出来事の配列の分析技法であり、先行研究例はそれ程多くない。この新しい技法を活用することにより、若いコーホート、とくに1960年以降の出生コーホートで非標準型のライフコースが多くなり、多様化が進んでいることを確認している。さらに、その多様化は学歴ならびに職業によって格差があり、経済的自立性の高い高学歴女性ほど多様化が進んでいること、仕事と家庭を両立させるか否かによってライフコースの選択性に差が生じていることを明らかにしている。この結果は、女性の間での学歴や職歴の差が、ライフコースを選べる/選べないという二極化をももたらす可能性を示唆している。
 赤林英夫「NFRJ03・NFRJ98からみた丙午生まれのその後」は、丙年すなわち1966年生まれの女性を対象に分析している。丙年生まれの女性にはマイナスの迷信が注がれる一方で、コーホート規模が小さいゆえの有利さも予測され、他のコーホートとは異なるライフコースを歩んだ可能性がある。その実際を、まずは政府統計を用いて、ついでNFRJ98と03のプーリング・データを用いて検討したものである。教育水準、家庭環境、結婚確率、就業行動、配偶者、さらには結婚後の家事分業まで幅広く検討している。
 ほぼいずれの論文もNFRJ98とNFRJ03の双方に目を向けており、2000年を境とするこの5年間の社会情勢の変化の中での家族の変動を読み取ろうとしている。NFRJは家族関係に関する基本的な項目を備えた個票データを提供することを目的に実施されており、2度にわたるデータをこれで蓄積してきた。データの特性を活かした分析は、まだ手をつけられ始めたばかりである。本書が、さらなる学究的関心の高まりと実証研究の活性化につながることを期待したい。
 澤口恵一・神原文子編『親子、きょうだい、サポートネットワーク:第2回家族についての全国調査(NFRJ)2-2』に収録されている論文は以下のようなものである。

 
1 教育達成ときょうだい構成: 性別間格差を中心に 平尾桂子 17-27
2 乳幼児をもつ既婚女性の就業 鄭楊 29-43
3 都市度による親族ネットワークの空間分布と子育てサポート 立山徳子 45-58
4 父親の労働時間と子どもとの同伴行動 藤本哲史・新城優子 59-73
5 夫婦関係と養育態度 永井暁子 75-87
6 実親との関係良好度評価―NFRJ98-03の比較― 田中慶子 89-100
7 世代間関係における非対称性の再考―日本の親子関係は双系的になったか? 施利平 101-120
8 母子世帯の多くがなぜ貧困なのか? 神原文子 121-135
9 家族をめぐる人間関係としての家庭内コンフリクトに関する考察 熊谷文枝 137-149
10 社会関係資本と自発的協力の発展: 家族関係における社会統合 高田洋 151-163
11 ソーシャル・サポートから見る経時比較分析: NFRJ'98とNFRJ'03 菅野剛 165-180
12 中高年未婚者の福利とサポート・ネットワーク 澤口恵一 181-194
13 情緒的サポート源としてのきょうだいと家族 吉原千賀 195-207
14 きょうだい数と学歴に関する基礎的分析 平沢和司
 

 平尾桂子『教育達成ときょうだい構成:性別間格差を中心に』では、個々人の教育達成に影響する諸要因についてが検討されている。分析には、NFRJ03データのなかで、きょうだいが全て健在、父親が実父で、最も若いきょうだいが調査時点で19歳以上の調査回答者(3,106人)およびそのきょうだい(4,139人)を合わせた7,245件を用いている。父親学歴、きょうだい数、出生コホート、性差を説明変数に、進学先を被説明変数とする多項ロジスティック分析を行い、教育達成が、コホート、きょうだい数、父親の学歴、性差に影響されること、コホート、きょうだい数が男女の違いによって異なる効果を及ぼしていることなどの知見をふまえ、親の資源がきょうだい間で単に「希釈」されるのではなく、子どもへの教育(養育)投資に際して、親が選択的・戦略的に資源配分していると解釈されている。
 鄭楊『乳幼児をもつ既婚女性の就業』は、乳幼児をもつ女性の就業に対する影響要因として、親族による育児援助の有無と性別役割分業意識の違いが検討されている。分析対象は、NFRJ03データの若年票のなかから、0〜6歳未満の乳幼児をもつ既婚女性 (n=491)である。規定要因として「親族による育児援助」、「伝統的な性別役割分業観」、「母親規範(3歳児神話)」、「配偶者の収入」の4つを取り上げて、現在の就労の有無を被説明変数として2項ロジスティック回帰分析を試みている。その結果、乳幼児を持つ女性の就業率は、配偶者の収入が多いほど低くなり、「伝統的な性別役割規範」、「母親規範(3歳児神話)」への否定意識が高いほど高くなる、ということが明らかにされている。
 立山徳子『都市度による親族ネットワークの空間分布と子育てサポート』は、親族ネットワークの空間分布が、母親の子育てサポート選択に与える影響を都市度別に検討している。分析対象は、若年票のうち12歳以下の子どもをもつ女性822人である。急に子どもの世話を頼む必要のある時に、「配偶者」「自分の親」「配偶者の親」「友人や職場の同僚」「近所(地域)の人」「専門家やサービス機関」が援助先となるかどうかを被説明変数とし、「学歴」「就業形態」「末子年齢」「夫の通勤時間」「夫の情緒サポート」「夫の育児サポート」「実母の居住地」「義母の居住地」「都市度」を説明変数としてロジスティック回帰分析を行っている。親族ネットワークの空間分布は、夫、自分の親、義理の親、非親族からの子育てサポート選択に影響を与えていること、いずれの都市度においても、実親との空間距離の増大は実親のサポート選択を減少させること、義理の親との空間距離の増大は実親からのサポート選択を増大させること、などの知見を得ている。
 藤本哲史・新城優子『父親の労働時間と子どもとの同伴行動』は、父親の労働時間と日常的な親子接触の頻度との関係を検討している。NFRJ03のなかから、有職・有配偶で、長子が未成年、末子が12歳以下の子どものいる男性578名が分析対象である。分析の結果、労働時間が非常に長い父親(週間労働時間が60時間以上)と相対的に短い父親(週間労働時間50時間未満)との間で同伴行動の頻度に有意差があること、長時間勤務の父親ほど子どもと夕食をともにする頻度は減少する傾向が明らかにされている。
 永井暁子『夫婦関係と養育態度』は、子育てにおける親の虐待傾向のうち心理的虐待傾向に影響を及ぼしている諸要因の探求を行っている。分析対象は、NFRJ03データのうち、有配偶者で、末子3歳以上長子12歳以下の子どもを有する586ケース(男性246名、女性340名)である。分析の結果、虐待傾向は、実態も意識の上でも子育てに深く関わっている女性の方が男性より強いこと、学歴、世帯年収による統計的な有意差はなく、特定の階層の人に虐待傾向があるのではなく、何らかの生活問題を抱えた人に虐待傾向があること、生活問題のうち、家計のゆとりといった現状ではなく、漠然とした家計の将来に対する不安感の方が虐待傾向と結びついていること、および、役割ストレーンならびに夫婦関係と虐待傾向が関連していることなどの知見が得られている。
 田中慶子『実親との関係良好度評価-NFRJ98-03の比較-』は、成人子と親との情緒関係に焦点をあて、情緒関係を「関係良好度」と捉えて、NFRJ98とNFRJ03とを比較している。分析対象は、父母ともに健在で実親であること、本人に離死別経験がないこと、父親・母親ともに関係良好度についての回答があり、実父母が同一居住地にあり結婚継続しているという条件を満たす対象者で、NFRJ03では1642(男性731、女性911)、NFRJ98では1826(男性803、女性963)である。分析の結果、女性、有配偶、高学歴層(ただし男性のみ)において父母ともに良好であると評価する者が多く、また、NFRJ98とくらべ、NFRJ03では、全体的に父母ともに良好である者の出現率は増加していること、男性のみに出身階層による出現率の違いがみられるといった知見が得られている。
 施利平『世代間関係における非対称性の再考-日本の親子関係は双系的に』は、既婚子とその両親との関係について、同居は息子(主に長男)と、援助や交際は娘との間で行われる傾向を検証したうえで、息子と親との同居が多いことは、財産の相続と扶養は主に長男との間に行われることを意味し、日本の家族は今日でも一子相続の原理が生き続けており、親子関係は双系的になったのではなく、構造的に変化してと結論づけている。分析対象は、NFRJ03のなかで、調査時に有配偶で、父親または母親(配偶者の両親を除く)の少なくとも一人が生存している人である。
 神原文子『母子世帯の多くがなぜ貧困なのか?』は、母子世帯の多くが経済的に困難な状況になる要因を、NFRJ03データによって確かめている。分析対象は、28〜57歳の男女である。分析の結果、男女とも、学歴が低いほど離別率が高くなっていること、女性は結婚・出産を契機に大半が離職し、しかも、離職の傾向は学歴が低いほど高いこと、離婚後に復職する場合、常勤職に就くことができず、臨時・派遣では年数が経ってもほとんど収入は増えず130〜150万円程度と貧困層になることが明らかになった。しかも、子どもたちに貧困が再生産される可能性も指摘されている。熊谷文枝『家族をめぐる人間関係としての家庭内コンフリクトに関する考察』は、NFRJ03データを用い、家庭内コンフリクトが発生しやすい家族には、いろいろな形態の家族をめぐるコンフリクトが存在すること、多変量回帰分析の結果、家族成員間のコンフリクトにおいて、姑との同居、および仕事の有無の二変数が相反する効果を持つこと、有職の場合に、子ども虐待は有意に増加し、ディストレスも同様に有意に増加するという知見を報告している。
 高田洋『社会関係資本と自発的協力の発展-家族関係における社会統合-』は、人びとの結びつきを資本としてとらえ、社会統合や規範形成の基礎となる自発的協力を促すという社会関係資本の構造を明らかにするために、NFRJ03データを用いている。対象者のうち、本人からみて、本人の父と配偶者の3者間が得られるデータが用いられている。父と配偶者および本人の3者の関係に着目し、重回帰分析を行った結果、社会関係における「強い」関係の推移性が成り立っている場合、社会関係が閉ざされていることの方が社会統合に寄与することが実証された。
 菅野剛『Comparative Analysis on Social Support in Japan between 1998 and 2003』は、NFRJ98とNFRJ03の全データを用いて、人びとの社会的サポートの変化を分析し、人びとにとって家族の重要性が増していること、社会的サポートにたいする階層変数、人口学的変数の影響力が5年間で強まっていること、そして、5年の間で社会的サポート源として、隣人・友人が減少し、家族と親族が増加していることが明らかにされている。
 澤口恵一『中高年未婚者の福利とサポート・ネットワーク』では、NFRJ03データにおける40歳以上の未婚者189名を分析対象とし、40歳以上の未婚者の福利を総合的に把握したうえで、生活満足度に対する親族サポート・ネットワークの利用可能性の効果が検証されている。分析の結果、中高年未婚者、とりわけ男性において、福利や健康状態が有配偶者に比べると低い水準にあること、親族サポートの利用可能性は必然的に限られており、その構造も親ときょうだいに集中する傾向が強いこと、ただし、未婚者の生活満足度を説明する要因として、親族サポート・ネットワークの有意性は確認できなかったとの知見が示されている。
 吉原千賀『情緒的サポート源としてのきょうだいと家族』は、きょうだいを情緒的サポート源として頼りにするか否かに配偶者や子どもといった家族がどのような影響を及ぼすのかについて検討している。分析対象は、NFRJ03データのうち「きょうだいのいる(いた)」5854人である。「年齢」「性別」「学歴」「収入」「婚姻状況」「子どもの数」「女きょうだいの有無」「生存きょうだい数」「地理的距離」「接触頻度」を説明変数とし、「情緒的サポート源としてきょうだいを選択するか否か」を被説明変数として二項ロジスティック回帰分析を行った結果、「未婚者」「離死別者」で、きょうだい選択率が高いこと、しかし、コーホート差がみられ,親や家族外の人間関係によっても異なることが明らかにされた。  
 
2008年8月
(敬称略)

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