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研究助成

成果報告

2005年度

ヨーロッパにおけるアニメーション文化の独自の発展形態についての調査と研究

首都大学東京都市教養学部准教授
赤塚 若樹

1.研究概要
 ここ何年かのあいだにすっかり文化・芸術の一領域として認知されるようになったアニメーション。そのアニメーションを考察の対象としようとする試みも当然ながらさまざまになされているが、現在の研究にあっては作品をある特定の地域文化の産物として捉える視点が大きく欠落している。そのため、残念なことに参照すべききちんとした資料がほとんど整備されておらず、作品や作家について不確かな情報がまことしやかに流れてしまうような状況がある。
 本研究プロジェクトが取り組んでいる課題は、アニメーション産出国の多くが集中するヨーロッパを中心に据えて、こうした欠落や遅れを補い、取りもどすことにほかならない。確かな情報の蓄積、資料の整備を急務とし、それにもとづく新しい視点を従来の映像の分析や解釈に結びつけること、そして、そうすることによって現在のアニメーション研究に、これまでになかった展望を切り開くことを目的としている。同時に、狭い範囲のアニメーション研究にとどまらず、芸術や産業の「現場」、あるいはより広く一般の人びとの要求にも応えていきたいとも考えている。
 「共同研究者」に名を連ねているのは木村英明(スロヴァキア・東欧文化)、鈴木正美(ロシア文化/ロシア美術)、井上徹(ユーラシア文化/映画史)、古永真一(フランス文化/現代思想)、渡邊昭子(ハンガリー文化/西洋史)の5人。ほかに大学院に所属する若い研究者たちもグループの実質的な運営や活動にくわわっているし、さらにまた、若手のメディア・アーティストや国際的な活動をくりひろげるアニメーション作家とも協力関係が築けている。

2.研究の進捗状況
 研究の進め方は、グループのメンバー各自が自分の関心の領域にかかわってくる作家や作品について──必要に応じてその都度資料および情報の交換を行ないながら──調査と研究を進め、具体的な成果を順次報告・発表をしていく、という方法を基本としている。また、助成期間がはじまる直前の2005年7月末の時点ですでに本プロジェクトのHPを立ち上げており、グループとしての活動状況を随時報告するとともに、関連するテクスト類も公開してきた。
 具体的な活動内容についていえば、まずグループ全体としての会合を今年度は2回開催しており、そこでは以下のような報告や発表が行なわれた──

第1回研究報告・発表会 (2005年12月17日 首都大学東京 南大沢キャンパス)
研究報告・発表:[1]古永真一(共同研究者)「ラウル・セルヴェとベルギー文化」,[2]土居伸彰(アニメーション研究家)「アニメーター時代のユーリー・ノルシュテインとソユズムリトフィルム」,[3]鈴木正美(共同研究者)「コルネイ・チュコフスキイ原作のアニメーションについて」.
第2回研究報告・発表会 (2006年3月26日 「世界史研究所」会議室 東京・渋谷)
研究報告・発表:[1]中村泰之(メディア・アーティスト)「アニメーション表現技法の多様性について」,[2]井上徹(共同研究者)「スタレーヴィチの人形アニメーション」,[3]鈴木正美(共同研究者)「サプギールとアニメーション」.
 地域としてはソ連・ロシアが多くなったが、あつかわれたテーマはいずれもこれまで日本ではほとんど検討されてこなかったものばかりである。またメディア・アーティストによる実作者の視点からの報告は研究会に変化をもたらすとともに、本プロジェクト全体にとって大きな刺激となった。これらの研究報告・発表会はすべて一般に公開されており、研究者や学部生・大学院生のほか、アニメーションに関心をもつ一般の方々、さらにはアニメーション実作者によっても聴講されている。
 グループとしてはほかに、2005年秋、フランスのアニメーション映画監督ミッシェル・オスロ氏が日仏学院開催のイベント「日仏アニメーションの出会い」にあわせて来日したさい、インタヴューを執り行なうこともできた。その成果はすでにHPをとおして公表されている(古永真一「ミッシェル・オスロ監督との対話」)。
 グループとしてのおもな活動は以上のとおりだが、各メンバーがそれぞれ個別の活動のなかでも本研究に密接にかかわる研究成果の発表をしている。その一部のタイトルだけをあげれば、論文には鈴木正美「子どものまなざしと生きている事物たち──マンデリシュタームの児童詩について」(『新潟大学・人文科学研究』),古永真一「ジョルジュ・バタイユとバンドデシネ」(『ETUDES FRANCAISES』),講演には赤塚若樹「シュヴァンクマイエルの正しい見方・楽しみ方」(新潟大学)、赤塚若樹「転換期に開く才能──チェコのアートの場合」(東京都現代美術館),井上徹「ロシア映画のアヴァンギャルドとは何か──ヴェルトフ、エイゼンシュテインを中心に」(日ソ会館)、井上徹「スタレーヴィチ対プトゥシコ 初期ソビエト人形アニメ対決」(スラヴ研究センター)、鈴木正美「音楽的身体とパフォーマンス」(新潟大学)などがある。

3.今後の展開と課題
 以上のような研究活動全体のまとめとして成果報告論文集を作成することがグループ内で決まっており(今秋刊行予定)、現在その編集作業を進めている。
 本プロジェクトの活動や公表された一部の成果には研究者や愛好家だけでなく、アニメーションの「現場」にかかわるさまざまな方面からも関心が寄せられており、参加者や協力者の輪もまたたしかな手応えをもって拡がっている。そこですでに行なわれている人的交流とそれがこのプロジェクトにもたらしてくれる奥行きと拡がりには当初の予想をはるかに超えた興味深いものがある。取り組むべき課題の多いテーマだが、ありがたいことに次年度もつづけて研究助成をしていただけることになったので、そのひとつひとつを確実にこなしながら、このプロジェクトがもつ可能性をグループ全体で引き出し、たんなる研究の継続という以上の展開をくりひろげていきたいと考えている。(2006年8月27日記)

(敬称略)

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