サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > パクス・ブリタニカ期イギリスの海軍と外交

研究助成

成果報告

2004年度

パクス・ブリタニカ期イギリスの海軍と外交
― 軍事・外交・経済の統合的研究

慶應義塾大学法学部専任講師
細谷 雄一

 2002年7月より開始した本研究プロジェクトも、研究助成期間をほぼ終えつつあり、十分な資料調査、研究会合、検討会議などを経て、研究成果を著書の刊行というかたちで公表する段階へと近づいてきている。2004年の会合より、有斐閣編集部の編集担当の方に参加いただいており、田所昌幸編『パクス・ブリタニカとロイヤル・ネイビー』として、2006年3月の刊行が予定されている。これは日本における最初のイギリス海軍の研究書となるばかりか、19世紀イギリスの海洋国家としての本質を総合的に理解するための重要な基礎となると考えている。
 2004年から2005年にかけて、3回の合宿研究会(第1回・北海道キロロ、第2回・小田原ヒルトン、第3回・小田原ヒルトン)を経て、担当章の報告と討議を重ねることができた。通常の報告書とは異なり、十分な討議を出版編集者の方を交えて行うことで、体系的な一つの著書として完成度の高い成果を公刊できることになるであろう。また、2004年8月の北海道キロロでの合宿研究会の際には、五百旗頭真神戸大学教授や渡邉昭夫平和・安全保障研究所理事長など、高名な研究者の方々に貴重な見解を頂くことができた。これら一連の討議により、より質の高い公刊物を完成することが可能となるであろう。
 それらの討議によって、研究成果の中核となるいくつかの見解に到達することができた。まず、19世紀パクス・ブリタニカ期のイギリスは、単に軍事力を用いた「砲艦外交」によってその秩序を維持していたのみならず、そのロイヤル・ネイビーが海洋国家イギリスの通商網の安全を確保すると同時に、質の高い外交や、技術革新、そして国際協調枠組みなどを生かしながら、国際政治で重要な役割を担っていたことである。そして第二に、19世紀の後半には国際環境の変化によって、イギリスの対外政策が次第に変容してくことである。ロイヤル・ネイビーが圧倒的な地位を占めるのと平行して、相対的にイギリスの国際的地位が低下していくという逆説が生じる。つまりは、イギリスの海軍力は、マハン主義的に海戦に勝利するために存在したのではなく、海洋国家イギリスによる秩序の維持と、経済的繁栄、そして平和を確保するためにも重要な役割を担っていたといえる。このことは、現代の日本が海洋国家としてどのようにして国際の平和と安全を維持するのかという問題にも、重要な示唆を与えることであろう。
 最後に、複数年にわたり本研究の意義をご理解いただき、厚いご助力を賜っているサントリー文化財団関係各位に、研究メンバーを代表して改めて心より感謝申し上げたい。

(敬称略)

サントリー文化財団