成果報告
2004年度
南アジアにおける日本のプレゼンス拡大のための政策提言
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南アジア地域協力連合(SAARC)の将来と日本外交
- 桐蔭横浜大学法学部教授
- ペマ・ギャルポ
本件事業は、2ヶ年度実施する第2期の最終年度として、南アジアにおける相互理解と相互信頼を基盤とする新しい信頼醸成装置の創設へ向け、有効なる成果を達成することができたと判断している。開催した「公開シンポジウム」、「連続対話セミナー」においては、日本側メンバー、南アジア側メンバーの計18名が参加し、開催地での招待者、聴衆らと徹底的な議論を行った。また、開催のための移動中においても、知的な会話や情報交換を行われた。以下、本件事業の成果を列挙したい。
1)「なぜ、日本の研究者を中心にSAARCについて、南アジアの安定について」活動するのかについて、南アジア現地の人たちより明確な理解を得ることができた。すなわち、日本の立場から南アジア地域の安定は、世界全体の安全保障の面から、社会経済面からも重要であることを具体的にした。さらに、SAARC域外であり中立的な立場にある日本は、大きな貢献を果たすことが可能であり、我々が活動していることを示した。
2)南アジア地域の安定におけるSAARCの重要性について、共通認識を形成することができた。
「公開シンポジウム」、「連続対話セミナー」の冒頭において、ホスト国以外の本会メンバーによる講演を実施した。この講演では、講演者が自国の立場を離れて、IRF-SAARCのメンバーとしてSAARCの活動について、SAARCの現状について講演した。一連の講演では、ことなるテーマに関する発表が行われ、さまざまな観点からのSAARCの重要性の確認が行われた。特に、域内の安定、その人々の共通理解のためにSAARCが果たしてきた役割を強調する講演となり、非常に意義ある内容となった。ここで重要なことは、「南アジア地域に共に住む者」としての視点から、あるいは、自国の立場を離れての論議ができたことであろう。これまでの研究ワークショップなどにおいては、声の大きな者が発言し続けるという傾向があり、それは「大国インド」のしゃべりすぎとなっていた。だが、本件事業での取り組みにより、すべての参加者が対等の立場から、じっくり時間をかけて討議し、お互いに尊敬の念をもって話すという言動を確保することができた。これは、今後においてさらに発展するであろうし、これら参加メンバーからさらにメンバーを広げることにより、その輪を拡大することができると考えている。
3)各国がどのように SAARCの活動に関与するかを確認することができた。
南アジア7ヶ国は、さまざまな思惑や見通しのもとでSAARCの活動に対応する。そこで、各国がSAARCに対してどのような政策のもと対応しているのか、また実際にどのような活動を行い、その実績についての具体的な紹介と評価を実行することができた。各国とSAARCの関係について討論により、「自国自慢」を防ぎ、他国からの視点で分析された加盟7ヶ国とSAARCの関係について議論するよい機会となったと評価できる。特に南アジアにおいてはインドが大国として存在するため、これに対抗してSAARCが形成されたとの認識が強い。また、インドはSAARCに対して消極的ではないのかとの従前の理解を覆すような、経済高度成長中のインド側よりSAARCへの強い関心が表明された。同様に小国であってもSAARCにおいて、重要な役割を果たしていることを示したのであり、参加者にそれぞれの国の政策を紹介することにもつながったと言える。
4)テーマ別討論は、参加者をセッションに分割して行われ、各セッションのではかなり専門的な内容の論議が行われたことは、高く評価できる。テーマ別討論は、以下の4テーマにより参加者を分割し、小セッションを設けて行われた。各セッションのテーマについては、以下の通り設定した。・南アジアにおける暴力に頼らない安全保障への道、・南アジアの異文化を理解するための教育、メディアの役割、・南アジアにおける貧困救済と自由貿易、・南アジア相互理解のための観光、聖地
しかし、4テーマを同時並行で行うことには無理があり、一部のみで実施した。だが、講演を聴くということだけではなく、少人数で一つの示された問題を討議することは、南アジアの人びとには珍しいことであり、貴重な時間となった。そこにおいては、特に貧困対策と和平が結びつくものであり、一国の繁栄を地域の繁栄にいかに拡大するかとの視点の重要性が重ねて指摘された。例えば、高経済成長に支えられたインドは、SAARC諸国の市場開拓、投資、資源確保に積極的である。だが、そのような経済活動の発展は双方向で行われなければ成らず、インドのみが利益を有するような形での発展に対して強い警戒感が示された。だが、インド以外のSAARC加盟6ヶ国は、インド経済に依存しており、「良い経済関係とは、お互いが繁栄すること」との認識が参加者に醸成されたことは、きわめて高い評価を行うことができる。また、経済だけでなく、核兵器への対応も等しい意味をもつ問題であり、「SAARCの発展と消滅は、南アジアの和平に結びつき、それはインドが鍵を握る」との総括討論での一致した見解は、非常に大きな意味があると考える。
本会は、サントリー文化財団の助成を得て平成13年8月より活動を開始した後、再び貴財団の平成14年度助成を得て活動を進めることができた。研究活動や現地政府高官との面会などのためには、日本国政府外務省、在日の南アジア各国大使館の全面的な協力を得ているところであり、心より謝意を表したい。
(敬称略)