成果報告
2004年度
日本におけるソフトパワー発信の歴史的考察
- 東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程
- 久保 友香
1. 概要
本研究では、明治維新以降日本で行われてきたソフトパワー発信の試みを、官民にわたって調査、分析した。各機関で行われてきた試みは、目的も内容もそれぞれ異なり、各機関はそれぞれ別のノウハウを蓄積してきた。今後はそのノウハウを結集するため、官民の枠組みをも超えて連携し、取り組んでいくことが重要になる。そのためにはまず、日本の文化資源に関する事実を共有する必要がある。文化資源に関する、定量的かつ実証的な研究が必要であるが、これまでは海外の論説に頼っているだけで、実証的な研究はなされてこなかった。本研究はその最初の試みである。
2.実施した調査研究
2.1 内田真理子「日本の文化外交とソフトパワーの生成」
戦後の文化外交の活動と方針の変遷を調査し、ナイ(2004)のソフトパワー理論の発展モデルにより今後は政府内連携も含めた文化の育成から文化間対話まで、戦略的・総合的な文化外交が必要との結論を得た。終戦直後は文化の受信が中心であり、経済発展に従い日本文化への関心も高まり文化外交は本格化した。70年代には貿易摩擦対策として、活動内容も文化紹介から人物交流、日本語普及等に多様化し、ほぼ現在の体制が確立した。近年はパブリックディプロマシーの要請等により官民連携体制の整備、文化協力による国際貢献に注力している。
本研究は、外務省の支援(在外公館等の活動実績の資料、文化外交関係者への度々のインタビュー、情報交換会)により可能となった。今後は、日本国際文化学会誌と他1誌に投稿予定である。
2.2 内田真理子「コンテント財の外部効果に関する分析」
ソフトパワーの源泉であるコンテント財の外部効果と経済属性の分析により、効果の波及範囲を6レベルに体系化し、理論的基礎を築いた。6ヶ国のコンテント産業振興策より効果の意義を検証した。
2005年7月、日本国際文化学会発表。
2.3 久保友香「日本アニメーション表現の国際普及に関する研究」
日本のアニメーションの、アメリカでの流通を手がけるKen Duer氏(phuuz entertainment inc. president)と、ロスアンゼルスを拠点に日本的な3DCGアニメーションを制作する榊原幹典氏(SPRITE Animation Studio CEO/Creative Director)にインタビューを行った。これまでは戦略なくして普及した日本アニメであったが、世界市場が3DCGアニメーションのみを受け入れつつある現在、日本的な3DCG表現を確立し、普及させる方策も必要であるとわかった。これに関する内容は『日経キャラクターズ』2005年5月号と9月号に掲載した。
2.4 久保友香「Comic-Con2005リポート」
アメリカ最大のコミック・コンベンションComic-Conの調査リポートをまとめた。かつてから日本マンガを扱っていたVIS media、TOKYO POP、A.D.Vision、FUNimation以外にも、大手アメコミ出版社でもそれを扱うようになっていた。
2.5 久保友香「(社)裏千家談交会国際部長インタビュー」
裏千家の国際普及活動は、15代家元によって進められ54年の歴史を持つ。その間、留学生の受け入れ、英語版教科書の作成、海外大学での講座など、教育のシステムが整えられたが、34ヵ国97箇所の支部の会員について、本部では把握していない。
2.6 久保友香「フランスのファッション産業の人材の調査」
フランス・オートクチュール・プレタポルテ連合協会はフランスのファッション文化維持の中枢を担う機関である。協会の会員企業(2004年現在)のデザイナーの国籍について調査した。
この結果は内閣府における日本ブランド・ワーキンググループ第2回会合の資料として配布された。
2.7 吉田卓矢『ソフトパワーに関する論文』
評価軸そのものがソフトパワーを持つことを論じ、評価軸の確保とそれに基づいた政策を実施することを提言した。この論文は、松下政経塾政策論文「松下正治理事長賞」を受賞した。
2.8 浜野保樹『模倣される日本』(祥伝社)
本研究で得られた成果を元に、日本の映画、アニメーション、料理、ファッションなどが世界に影響を与えてきた事例を紹介し、模倣されることは魅力の指標になることを論じた。2005年3月出版。
(敬称略)