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研究助成

成果報告

2004年度

「沖縄」のオーラルヒストリー図書館づくりに向けて

早稲田大学国際教養学部教授
勝方 恵子

研究概要(研究成果、進捗状況、今後の課題)
 オーラル・ヒストリー・アーカイヴを構築するにあたって、プロジェクトメンバーの総意として挙げられたのは、それぞれの統一テーマにそって集中的にビデオ撮影やテープ聴取を行い、さらにそれらを各自が論文に仕上げて研究座標軸に位置づけるということだった。2004年度のオーラル・ヒストリー・プロジェクトは以下の3テーマを中心に展開し、『沖縄学』(第8号 沖縄学研究所 2005年3月発行)に特集を組んで発表した。

1. 久高島の生活と祭祀(一)――高田普次夫先生に聞く―― 担当:小山和行
 沖縄学の長老・高田普次夫先生の聞き取り調査の一環で、今回は、第一尚氏最後の久高島ノロ「クニカサ」を出した大里家(ウプラト)に焦点をあてることで、第二尚氏によって整備された「イザイホー」よりも古い形態の祭祀組織をも、浮かび上がらせることができた。大里家は五穀発祥の地として伝承されているハンチャ(神田)を管理する家で、現在でもノロの真栄田苗さんが管理し、祭祀権を保持している。高田氏の視野は久高島から東南アジア全域に広がり、近代国家による国境策定のフィクション性を暴いて歴史の「常識」を転覆させる効果があるので、ポスト・コロニアルな語りの代表例として今後も聞き取りを継続する。

2. 久高島調査中間報告――ハンジャナシーの祭りを中心に―― 担当:三島まき
 第二尚氏以前から存在していると言われている秘祭「ハンジャナシー」に焦点を当てた聞き取り調査で、歴史的にも貴重な映像を撮ることができたのは大きな成果、民俗学的にも文化論的にも非常に価値がある。この祭りは、家レベル・血縁レベルで行われ、ニライの神々を迎えるという創生神話を再現したような祭祀形態をしており、「イザイホー」よりも古い祭りではないかと考えられ、南西諸島に広く見られる祭祀形態――例えば粟国島の「ヤガン折り目」、渡名喜島の「シマノーシ」など――に通底するものとして論文では詳細に比較検討された。今回は中間報告であるが、これまで何年もフィールドに通い詰めることによって現地インフォーマントとの信頼関係を築いてきたこともあり、これからも貴重な映像が期待できる。

3. 幻の女性作家・久志芙沙子の発掘 担当:勝方=稲福 恵子
 1932年、『婦人公論』6月号に一回だけ掲載された小説「滅びゆく琉球女の手記」と翌月号に掲載された「釈明文」だけで、いちやく沖縄近代女性作家のさきがけとなり、近年多くの研究者によって注目されるようになり英訳まで出版されるようになった久志芙沙子ではあるが、生誕百年の2003年の段階にいたっても、いまだに「幻の女流作家」といわれるほど、伝記的事実が皆無に等しかった。筆禍事件の後も、作家としてあれほど期待を集めながら忽然と姿を消し、やがて四十年後に「宗教家」として再登場した芙沙子の軌跡は、西欧近代を相対化させるに充分な「沖縄女性」の存在感を持って迫ってくる。とくに、1922年から1927年まで台湾に移住していた事実や、新しい投稿作品(和歌と詩歌)の新発見は、貴重なものである。遺族や関係者へのインタヴュー結果は「久志芙沙子年譜」としてまとめることができたが、「台湾時代」は依然として空白部分が多いので、さらに集中的に調査する必要があると考える。

以上がこれまでの研究成果・進捗状況であるが、今後の課題として挙げられるのは、以下の通りである。

(1)文化人類学的なテーマや、精神病理学的なテーマ、政治行政的なテーマなどに関する聞き取り調査。
(2)すでに収録された貴重なテープ類(とくに1960年代もの)の劣化を防ぐための、CDへの再録画。
たとえば、外間守善氏の言語学的・民俗学的調査で録音された貴重なカセットのCD化。
あるいは、「ヴィジュアル・フォークロアー」(代表:北村皆雄&みうらようこ)所蔵の沖縄の貴重な祭祀ビデオ・フィルムの劣化防止策(共同での取り組み依頼があった)。
(3)これまで収集した聞き取り調査のリストなどにWeb上でもアクセスできるような工夫をすること。


(敬称略)

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