成果報告
2004年度
日本料理のグローバル性の実証研究
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異文化リテラシーの観点から
- 武庫川女子大学生活環境学部講師
- 大森 いさみ
1. 研究概要
本研究は、京都の日本料理人約80名が加入する「日本料理アカデミー」と、フランスの若手料理人約40名が参加する「Génération.C」を調査母体とする日本料理の国際普及の実証研究です。日本料理の国際普及活動を事例に、異文化理解のために必要なコミュニケーションプロセスを明らかにすることを目的としています。
来日経験のないフランス人料理人と海外経験の少ない日本人料理人を対象に、まずはフランス、半年後に日本で日本料理ワークショップを実施しました。(日本での実施については05年10月予定)被験者に対して、各ワークショップ前後に、聞き取り調査及びアンケートを行い、日本料理に対する理解の変化に及ぼす要因について分析を行いました。
2. 現時点における分析結果
日本におけるワークショップ及び、研修が行われる前の段階である05年8月現在にける分析結果は以下の通りです。
(1)日本料理とは?〜日本料理業界における意識のゆれ〜
調理技術に重点をおく立場と、文化的側面を重視する立場とに大きく二分されています。重要なポイントは日本料理人たち自身がこのことについて、ほとんど気づいていないことです。にもかかわらず、フランス人料理人のフランス料理定義と比較すると排他的、特殊性を強調する傾向が強いことが示されています。
(2)「即興的」から「論理的」への移行
05年3月フランス・リヨンで行った日本料理ワークショップ前後の心変化をSD法によって評定しました。
フランス人被験者たちはワークショップ前までは日本料理に対して、「美しい」「繊細」であるものの、「即興的」で「割高」であると評価しています。それがワークショップ後には「論理的」で高度な調理技術を有した料理であると変化をみせました。これは、フランスでの日本料理の情報・普及の現状を端的に示すとともに、技術の「論理的」理解が異文化間では不可欠であることが考察されます。
(3)異文化リテラシーのキーワードは「尊敬」
ワークショップ後に、日本料理に対する「尊敬」を表現した参加者ほど、日本でのプログラムに対して積極的な行動をとっています。日本側参加者についても同様の傾向をみることができます。逆にやや「親近感」が高まった程度の参加者は異文化に対する関心が一時的なものにとどまっていることから、「親近感」から「尊敬」への変化が異文化リテラシーへの起因要素になることが考えられます。
3. 現時点における考察
異文化としての日本料理の理解のためのプログラムとして「ワークショップ」という手法は、非常に効果的であったといえます。ワークショップを通して、はじめてフランス人料理人たちは自分たちの料理(フランスの星付きレストラン)に相応する料理として、日本料理をとらえ、その背景にある文化にも関心を示しはじめています。 フランス人参加者には、フランスでの日本料理講習会や活字媒体への接触経験を持つ者が多かったことから、従来型のシンポジウム、講習会形式での異文化交流を超えた可能性を持つ手法であるといえるでしょう。
ただ、その成果は参加者の世代、調理技術、料理観によって、ばらつきがみられることも否めません。また、料理という非常に具体的事象を扱う分野であるだけに、単なる調理技術の披露合戦になってしまう可能性があります。今後、日本料理の国際普及の手法としてのワークショップを展開していくうえでの大きな課題です。
05年10月6日〜17日に予定されている日本でのフランス人料理人の研修及びワークショップについても、同様に日本側、フランス側の参加者に対して聞き取り調査及びアンケート調査を実施する予定です。そこでは異文化理解に「環境」要因が与える影響について分析・考察することができるのではないかと考えています。
(敬称略)