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研究助成

成果報告

2004年度

土地希少化と勤勉革命の比較史
― 経済史上の近世

大阪市立大学大学院経済学研究科教授
大島 真理夫

 本研究は、社会経済史学会の2004年度全国大会共通論題報告(「コンファレンス・レポート」『社会経済史学』71-1、2005年5月)を出発点にしている。今回の研究助成を得て、参加者を拡大し、成果を出版すべく、研究を続けた。具体的には、2004年12月には、大阪市立大学で研究会を開催することができた。それ以外は、もっぱらメールの交換を通じて、議論を深めている。その過程で、研究代表者(大島)が担当する序章が大幅に拡張され、序章は本書のねらいや全体像をていねいに述べ、理論的枠組の部分は第1章に分離して述べることになった。各担当者との間で、かなり激しい議論が行われたことは、共同研究の完成度を高め、大きな意義があった。予定されている論文集の目次と担当者は次の通りである。

『土地希少化と勤勉革命の比較史-経済史上の近世-』
序章 土地希少化と勤勉革命の比較史-本書のねらい-(大島真理夫)
第1章 要素投入パターンと土地希少化の歴史的位置(大島真理夫)
第2章 江戸時代における経済発展と資源制約-17世紀像の再構成を中心に-(江藤彰彦)
第3章 近世日本農書の転換と土地希少化(徳永光俊)
第4章 「地峡人稠」の表象-長江中下流域の土地希少化と勧農文-(青木敦)
第5章 ジャワ島における土地希少化とインボリューション論(大橋厚子)
第6章 土地希少化と「土地無し農民」-インドの場合-(脇村孝平)
第7章 「農場」と「小屋」-近世後期マルク・ブランデンブルグにおける土地希少化と農村発展-(飯田恭)
第8章 人口圧と農業発展-18世紀のヨーロッパとロシア-(土肥恒之)
終章 前近代経済成長の二つのパターン-徳川日本の比較史的位置-(斎藤修)


我々の研究の特徴を箇条書き的に述べれば次の通りである。

(1)同時代の地域間比較。先行研究では,勤勉革命と産業革命という比較がなされたが,我々は,近世という同時代の地域間比較を行う。
(2)供給側への注目。各地域の経済における要素投入・要素の希少性(とくに土地と労働)のあり方に注目する。
(3)方法概念としての土地希少化。どの地域でも同じように土地希少化に直面したということではなく,地域間比較の方法概念として,土地希少化を用いる。勤勉革命も,土地希少化への対応の一つの方法と理解する。
(4)日本発の概念による比較史。「勤勉革命」という日本発の概念によって地域比較ができることを喜んでいる。第2章〜第8章の順序は,そのことを明示している。
(5)序列化の否定。これまでの比較史は,しばしば,各地域を先進-後進の序列に編成しがちであったが,我々は,勤勉革命をモデルとしているわけではなく,地域がおかれている自然的・社会的条件によって,土地希少化に驚くほど多様な対応が行われていることを,ありのままに示すことが重要であると考えている。
(6)「勤勉」の意味。近現代日本の歴史的文脈では「勤勉」という言葉は,しばしば,さまざまなポリティカルな意味を込められて使われてきた。我々は,合理的な時間配分としての「勤勉」を強調する。
(7)「経済史上の近代」への展望。近世の次に来るべき「経済史上の近代」は「資本の時代」であるが,それは土地希少化という資源制約状況への解決として登場するわけではない(結果的にはそうなったが)。したがって,『土地希少化と勤勉革命の比較史』は,要素の希少性論から一元的に「移行の必然性」を明らかにするというような志向性はもたない。
 当初の予定よりは遅れているが、現在、半数以上の原稿が集約されており、遅くとも今年度内に発行される見通しである。

(敬称略)

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