受賞のことば
政治・経済2018年受賞
『立憲君主制の現在―日本人は「象徴天皇」を維持できるか』を中心として
(新潮社)
1967年生まれ。
上智大学大学院文学研究科博士課程修了(西洋史専攻)。博士(史学)。
神奈川県立外語短期大学教授、関東学院大学文学部教授などを経て、現在、関東学院大学国際文化学部教授。
著書:『近代ヨーロッパ国際政治史』(有斐閣)、『物語イギリスの歴史(上・下)』(中央公論新社)など
このたびは、伝統あるサントリー学芸賞を賜りまして、誠に有り難うございます。財団の方々、選考委員の先生方、そしてこれまで私の作品をご担当いただいた編集者の方々と出版社各位、さらに研究上でお世話になった先生方に心よりお礼申し上げます。
私がこれまで主に研究して参りましたのは、近現代のイギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史という分野でございました。最初に公刊された論文「グラッドストンとスエズ運河」は、私の卒業論文に基づくものでした。学部3年生次から取り組んだ課題でございますので、今からちょうど30年前ということになります。その頃の私は、イギリスであれ、他のヨーロッパ諸国であれ、政治や外交を動かしているのは、首相や外相、外交官たちといった現実政治の担い手であると強く思っておりました。
しかし、その後に取り組んだ博士論文(のちに『イギリスニ大政党制への道』として、有斐閣より刊行されました)では、19世紀後半から20世紀という時代においても、君主が政治や外交に大きな影響力を及ぼし続けているのではないかということに気がついたのです。その頃から、王室が持つ今日的な意義や君主たちの果たす政治的な役割について、細々とではございますが、探究するようになりました。
このたび主たる業績として受賞対象に選ばれました『立憲君主制の現在』は、それ以降の20年間にわたり、私自身が関心を持ち続け、ある意味では満を持して書き上げた作品であったのかもしれません。
21世紀のこんにち、君主制など民主主義とは相容れない時代おくれの制度ではないか、という声も聞かれます。しかし、私が本書で強調いたしましたとおり、その君主たちこそが国民の声にじっくり耳を傾け、国民に寄りそって、時代とともに歩み続けているのではないか。だからこそ、イギリスをはじめ、北欧やベネルクス各国では、王室と国民が一体となって、多文化共生社会の構築、男女同権、人権の尊重、そして民主政治の維持という今日的な課題に積極的に取り組んでいるのです。
日本は来春、新しい天皇とともに新しい時代を迎えようとしております。戦後70年の間続いてきた象徴天皇制の今後のあり方にも、こうした世界の君主制の現状は大きな示唆を与えてくれるのではないか。そのような思いで執筆した本書を、選考委員の先生方が高く評価してくださったことに、心より感謝いたしたく存じます。