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サントリー学芸賞

受賞のことば

政治・経済2018年受賞

阿南 友亮(あなみ ゆうすけ)

『中国はなぜ軍拡を続けるのか』

(新潮社)

1972年生まれ。
慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学(政治学専攻)。博士(法学)。
東京成徳大学人文学部専任講師、東北大学大学院法学研究科准教授、米国ハーバード・イェンチン研究所客員研究員などを経て、現在、東北大学大学院法学研究科教授、同大学公共政策大学院院長。
著書:『中国革命と軍隊』(慶應義塾大学出版会)、『シリーズ日本の安全保障5 チャイナ・リスク』(共著、岩波書店)など

『中国はなぜ軍拡を続けるのか』

 日本はどのように中国と向き合うべきか。子供の頃の中国体験をきっかけに、このことについて日常的に意識し、考えるようになりました。
 私が最初に北京に住んだのは、本書で焦点をあてた鄧小平が「改革・開放」路線を打ち出して間もない1980年代半ばでした。70年代末まで続いた文化大革命から解き放たれたばかりの当時の中国では、外国に関する情報が欠乏していました。街を歩いていると、中国の大人たちから質問攻めにあうこともしばしばで、そのような場面に遭遇するうちに、「なぜ、彼等は外の世界の現状をあまり知らないのだろう」という素朴な疑問を持つようになりました。それが政治体制に起因するものであることを理解するまでにそれほど時間を要しませんでした。
 強力な言論統制装置を備えた中国の政治体制が大きく改革されない限り、日本と中国の関係は政府レベルでも民間レベルでも制約を受け続け、信頼を積み上げていくことが難しい。大学院時代の中国留学(2000年~2002年)や中国での現地調査などをつうじて中国の経済発展を目の当たりにしても、そうした私の認識が変わることはありませんでした。
 先進諸国と安定した関係を築くには中国が自らの政治・経済体制を改革せねばならないという認識は、もともと「改革・開放」路線の大前提となっていました。一方、日本・米国・西欧主要国は、その改革が平和と繁栄、さらには中国の民主化をもたらすという期待に基づき、借款・投資・技術支援といった形で中国共産党の試みを支援してきました。
 ところが、中国では日・米・EUとの経済的相互依存関係が深まるのと並行して大々的な軍拡が展開されるようになり、それが日米同盟との軍事的緊張の増大ならびにアジア・太平洋地域の安全保障環境の不安定化を招きました。また、中国共産党政権は、自国の経済発展と中国人民解放軍の増強に伴い「変わらなければならないのは中国の政治体制ではなく、中国を取り巻く既存の国際秩序の方である」という立場を徐々に露にするようになりました。
 なぜ、こうなってしまったのか。本書の執筆にあたっては、主として1970年代から21世紀初頭にかけての中国の政治史を分析し、軍拡の背後にある「改革・開放」路線の構造的矛盾を抽出するという目標を設定いたしました。
 試行錯誤を重ねたその取り組みに対して、このたび栄誉ある賞を賜り、たいへん光栄に存じます。本書の刊行に際し、御支援をいただいた皆様に改めて感謝申し上げます。

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