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サントリー学芸賞

選評

政治・経済 2013年受賞

砂原 庸介(すなはら ようすけ)

『大阪 ―― 大都市は国家を超えるか』

(中央公論新社)

1978年生まれ。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。
日本学術振興会特別研究員、大阪市立大学大学院法学研究科准教授を経て、現在、大阪大学大学院法学研究科准教授。
著書:『地方政府の民主主義』(有斐閣)、『政党組織の政治学』(共著、東洋経済新報社)、『「政治主導」の教訓』(共著、勁草書房)など。

『大阪 ―― 大都市は国家を超えるか』

 現在、世界で勢いのあるのはルクセンブルク、シンガポール、香港など、小さな国々である。ルクセンブルクは人口48万人、2,500平方キロ、一人当たりGDP8万ドル、シンガポールは540万人、700平方キロ、5万ドル、香港は700万人、1,100平方キロ、4万ドルである。
 日本では、東京の特別区部が900万人、600平方キロ、横浜市は367万人、400平方キロ、これに対し大阪市の人口は日本第三位の268万人だが、面積は政令指定都市でもっとも小さい220平方キロである。きめ細かい行政をするには大きすぎるが、世界と競争するには小さすぎるのである。
 戦前、大阪市長として活躍した関一は(市長在任:1923〜35)、人口の増加を始めとする都市問題の解決を、近隣の市町村を合併して面積を拡大し、都心部と近郊の住宅地域とを一体として発展させることによって解決しようとした。御堂筋の拡幅や地下鉄建設を中心とする交通網の整備は、その中心的な手法だった。その結果、大阪市は、関東大震災の打撃を受けていた東京を抜いて、人口日本一の大都市となっていった。
 しかし、大阪市の地理的拡大はそれ以上広がらず、都市化に伴う諸問題を抱え込むことになった。大阪市における事業から発生する税金のかなりの部分は国と大阪府のものとなる一方で、郊外に住み、大阪市で働く大阪府民の市町村住民税は、それぞれの市町村のものとなった。いわば大阪市は搾取されていたのである。
 それを可能としたのは「自民党システム」だった。戦後日本では、農村部に過剰な議席が与えられ、そこに安定した地盤を持つ自民党政治家が当選を重ね、国政をリードする構造が成立した。これに対し都市部は、相対的に少ない数の政治家しか選び出すことができず、また、有権者の流動性が高いこともあって、都市部の政治家は当選を重ねることが困難だったため、都市の発言権は二重の意味で小さく押さえられたのである。
 高度成長期の日本では、国土の均衡ある発展が唱えられたが、それは都市を突出させないということであった。これに対する反発として、革新自治体が生まれ、民主党、公明党、共産党などが大都市部で力を伸ばしたが、国政をリードすることはなかった。
 しかし、やがてグローバル化の中で、都市のダイナミズムを中心とする発展が不可欠な時代がやってきた。そこでは、空港、港湾、大都市交通網の整備が不可欠であるが、大阪にはそれらを実現する基盤が著しく欠けていた。
 こうした歴史的な分析の中に、著者は、橋下徹の大阪維新の会の急速な台頭を位置づけ、同時にその足らざるところをも指摘している。
 著者はすでに『地方政府の民主主義 ― 財政資源の制約と地方政府の政策選択』(2011年、有斐閣)において、直接公選される知事と、これとは別に選出される地方議会の関係について分析し、経済成長が鈍化する1990年代から両者の間の緊張が高まり、多くの改革派知事が登場する理由を明らかにしている。本書は新書であるが、やはり学問的に堅固な基礎を持つ著作で、明快かつ斬新である。大阪や大都市に関心を持つ人のみならず、日本の政治、経済、国土のあり方を考えるために、多くの人に読んでほしい著作である。

北岡 伸一(政策研究大学院大学教授)評

(所属・役職等は受賞時のもの、敬称略)

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